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第2話:身体が勝手に動く

「なんだ? 随分強い光だな」

「ヒヒヒ、最悪の呪いかもな」


 トレミーとスーフィーの声が聞こえる。

 視界を覆った白い光は消え、倒れたままの僕をニヤニヤ笑いながら眺める3人の姿が見えてきた。


「アルキオネく~ん、どんな呪いか教えてくれない?」


 ハインドがしゃがみ込んで僕の顔を見ながら言う。

 その瞳に映る僕の顔は、虚ろな表情をしていた。


「全然動かないな」

「光が消えたら呪い確定だろ?」

「こいつ、気ぃ失ってんじゃないか?」


 3人の声はハッキリ聞こえる。

 魔法陣の中には入ろうとせずに、外側からこちらを観察している姿が見える。


 気絶はしていない。

 意識はハッキリしている。

 でも、僕は指1本動かすことができなくなっていた。


『え? ここ何処? まさか異世界転生か?!』


 オマケに、知らない誰かの【声】が頭の中で響いてるし。

 音として聞こえるワケじゃないけど、僕より年上の男の人だと分かった。

 その直後、僕の頭に知らない世界で暮らしていた記憶が流れ込んでくる。


 知らない風景

 知らない人々

 知らない道具

 知らない食品


 僕が見たことのないものに関する情報が、僕の記憶に書き加えられた。

 それは、「ホシノスバル」という異世界人の記憶。

 ホシノはファミリーネーム、スバルが名前。

 彼は僕と違って両親に育てられた子供だった。

 僕みたいに学校でイジメられることも無く、平和に暮らしていた。

 でも、トラックという大きな金属の箱に車輪が付いた乗り物に轢かれて、死んじゃったという。


 死ぬ前の記憶にも驚いたけど、死んだ後から現在までの記憶にはもっと驚いた。

 女神リイン様?

 創世神話に出てくる、生命を司る神様だよね?

 リイン様はスバルを僕の身体に宿らせたらしい。


『……なーんてな。ふむふむ、これがアルキオネの中か』


 スバルは心の中で独り言を呟いている。

【僕】の意識があることには気付いていないみたいだ。


 一方。


「どうするこれ?」

「そろそろ研修が終わる時間だし、置いて帰ろうぜ」

「そうだな、帰るか」


 3人組は動かない僕を置いて帰っていく。

 僕は倒れたまま、それを見送るしかなかった。


 無責任に放置された。

 ハインドが壊した監視用魔道具を拾い上げて持ち帰ったけど、あれには何も証拠は映ってないだろう。


『酷いな置き去りかよ。ま、その方が好都合だけど』


 3人の姿が見えなくなってしばらく経つと、スバルはまた心の中で呟く。

 好都合って何?

 って思った直後、僕の身体が自分の意思とは無関係に動き出し、ムクッと起き上がって魔法陣の上に立ち、スタスタと歩き出した。


 え? えぇっ?!

 僕は驚くしかなかった。

 そんな僕には気付かない様子で、スバルは僕の身体を動かして歩いていく。


 まって。

 そっちは出口じゃないよ?!


 僕は慌てたけれど、身体は勝手に歩き続ける。

 見えるし、聞こえるし、何かに触れれば触れた感じも分かる。

 なのに僕は、全く自分の身体を動かすことができなかった。

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