「なんだ? 随分強い光だな」
「ヒヒヒ、最悪の呪いかもな」
トレミーとスーフィーの声が聞こえる。
視界を覆った白い光は消え、倒れたままの僕をニヤニヤ笑いながら眺める3人の姿が見えてきた。
「アルキオネく~ん、どんな呪いか教えてくれない?」
ハインドがしゃがみ込んで僕の顔を見ながら言う。
その瞳に映る僕の顔は、虚ろな表情をしていた。
「全然動かないな」
「光が消えたら呪い確定だろ?」
「こいつ、気ぃ失ってんじゃないか?」
3人の声はハッキリ聞こえる。
魔法陣の中には入ろうとせずに、外側からこちらを観察している姿が見える。
気絶はしていない。
意識はハッキリしている。
でも、僕は指1本動かすことができなくなっていた。
『え? ここ何処? まさか異世界転生か?!』
オマケに、知らない誰かの【声】が頭の中で響いてるし。
音として聞こえるワケじゃないけど、僕より年上の男の人だと分かった。
その直後、僕の頭に知らない世界で暮らしていた記憶が流れ込んでくる。
知らない風景
知らない人々
知らない道具
知らない食品
僕が見たことのないものに関する情報が、僕の記憶に書き加えられた。
それは、「ホシノスバル」という異世界人の記憶。
ホシノはファミリーネーム、スバルが名前。
彼は僕と違って両親に育てられた子供だった。
僕みたいに学校でイジメられることも無く、平和に暮らしていた。
でも、トラックという大きな金属の箱に車輪が付いた乗り物に轢かれて、死んじゃったという。
死ぬ前の記憶にも驚いたけど、死んだ後から現在までの記憶にはもっと驚いた。
女神リイン様?
創世神話に出てくる、生命を司る神様だよね?
リイン様はスバルを僕の身体に宿らせたらしい。
『……なーんてな。ふむふむ、これがアルキオネの中か』
スバルは心の中で独り言を呟いている。
【僕】の意識があることには気付いていないみたいだ。
一方。
「どうするこれ?」
「そろそろ研修が終わる時間だし、置いて帰ろうぜ」
「そうだな、帰るか」
3人組は動かない僕を置いて帰っていく。
僕は倒れたまま、それを見送るしかなかった。
無責任に放置された。
ハインドが壊した監視用魔道具を拾い上げて持ち帰ったけど、あれには何も証拠は映ってないだろう。
『酷いな置き去りかよ。ま、その方が好都合だけど』
3人の姿が見えなくなってしばらく経つと、スバルはまた心の中で呟く。
好都合って何?
って思った直後、僕の身体が自分の意思とは無関係に動き出し、ムクッと起き上がって魔法陣の上に立ち、スタスタと歩き出した。
え? えぇっ?!
僕は驚くしかなかった。
そんな僕には気付かない様子で、スバルは僕の身体を動かして歩いていく。
まって。
そっちは出口じゃないよ?!
僕は慌てたけれど、身体は勝手に歩き続ける。
見えるし、聞こえるし、何かに触れれば触れた感じも分かる。
なのに僕は、全く自分の身体を動かすことができなかった。