アルキオネに転生した俺は、意地悪トリオにダンジョンの中に置き去りにされた。
研修の制限時間はそろそろ終わる。
ダンジョン研修は、以下の3つのうちどれかを達成すればOK。
①制限時間内に帰還
②宝箱の中からアイテムを持ち帰る
③魔物を倒して魔石を持ち帰る
意地悪トリオが動けないアルキオネを放置して帰ったのは、①を達成するため。
②はダンジョンの奥まで行かないと取れない。
③も魔物が出るエリアまで行かないとできない。
アルキオネに嫌がらせすることを楽しんでいた連中は、楽に達成できる①を選んだ。
(今から出口へ向かっても間に合わないな)
俺はそう思い、①は諦めて②か③を目指すことにした。
呪いの魔法陣がある場所までは、魔物は出ない。
ここから奥へ進めば、スライムが出現する通路がある。
俺はそこを目指す。
元のアルキオネのステータスなら
でも今は違う。
転生前にゲームで試したけど、今のステータスならこの初級ダンジョンの魔物は余裕で倒せる。
ここは冒険者学園1年生が入る【かけだしダンジョン】だ。
罠は無いし、魔物たちは魔法も特殊攻撃も仕掛けてこない。
俺は魔物が出るエリアに向かった。
(お、スライムだ)
通路の先に、丸いゼリー状の魔物がポヨンポヨン跳ねているのが見える。
大きさは、サッカーボールくらい。
この世界のスライムは体当たりの物理攻撃で、攻撃を食らうと打撲傷になる。
(弱点は魔核だったな。透けて見えてるから狙いやすい)
俺はアルキオネが装備しているショートソードを鞘から抜いて構えた。
スライムが1匹、ポヨンポヨン跳ねながら近づいてくる。
いきなり大ジャンプからの体当たりを仕掛けてきたぞ。
俺は予測していたそれをサッと避けて、剣を突き出して魔核を貫く。
プシュッと空気が抜けるような音がして、スライムが消滅した。
(お、これが魔石か?)
消滅したスライムと入れ替わりに、水晶みたいな無色透明の小石がポトリと落ちる。
俺はそれを拾って、ベルトポーチに入れた。
これで③はクリアだ。
(せっかくだから②もクリアしておこう)
俺はスライムを倒しながらダンジョンの奥へと進む。
初心者向きのダンジョンはそんなに距離はなく、すぐに最奥に到着した。
通路の果てに宝箱が見えてくる。
それは倒したスライムたちの体色に似た水色の宝箱だった。
(確かこれもトラップは無かったな)
俺はこのダンジョンをゲームで経験して宝箱の位置や罠の有無を知っている。
ここには宝箱も含めて罠は無い。
呪いの魔法陣はあるけど、あれは罠の類ではないらしい。
(宝箱の中身は……っと、これはスキルカードか)
俺は宝箱から取り出したカードをじっと見つめる。
魔法文字でスキル名が書いてあり、俺はそれを読むことができた。
スキル:スライムアタック
スライムの攻撃を再現したスキル。
スキルを使うと手乗りサイズのスライムが飛び、相手に打撲傷を与える。
使用者の運が良ければ、相手を転倒させられる。
(何かの役に立ちそうだな。習得しておこう)
俺はカードの魔法文字を右手の人差し指でなぞる。
文字の意味を理解していれば、指でなぞることでスキルを習得できるんだ。
女神リイン様、言語理解を付与してくれてありがとう。
アルキオネはスキル「スライムアタック」を習得した。
(これで③もクリアだな。ダブル達成なら先生も評価してくれるだろう)
使用済みカードをベルトポーチに入れて、俺はダンジョンの出口へ向かった。