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第6話:学食のミノカリー

 校庭に隣接した森の中、かけだしダンジョン入口前で倒れたトレミーたちを放置して、僕の身体を操るスバルは振り返りもせずにスタスタ歩いて帰っていく。

 今日の授業はこれで終わり、学食で夕飯を食べて帰るだけだ。

 僕の記憶を持つスバルはそれを知っていて、迷わず学食に向かった。


「おばちゃん、ミノカリー大盛おねがい」

「珍しいねアルキオネ、あんたが大盛なんて」


 学食に着くと、スバルはミノカリー(正式名称ミノタウロスカリー)の大盛を頼んだ。

 え?! 

 僕の身体、そんなに食べられないと思うけど。


「うん、なんだか今日は凄くお腹空いちゃって」

「ならたくさんお食べ。はい大盛だよ」

「ありがとう! いただきまーす!」


 大盛ミノカリーとナンを乗せたトレーを持って、スバルは嬉しそうに食堂の窓辺の席へ向かった。

 大丈夫かな? 残したら勿体ないよ?

 普段の僕は小食で、少な目にしてもらうくらいだ。


(美味そう! これゲームで見て楽しみにしてたんだよな~)


 スバルが心の中ではしゃいでいる。

 僕の人生6年間を、スバルはゲームという形で追体験した。

 だからこの学食一番人気ミノカリーを楽しみにしていたんだろう。


(うっまぁ~! ミノタウロスの肉ってやはり牛肉系か。骨付き肉のカレーなんて初めて食べたぞ。脂身がとろけるくらい煮込まれてて最高!)


 ナイフとフォークを使って柔らかく煮えた肉を骨からはずし、頬張りながらスバルが感動している。

【カレー】というのは、スバルの国にあるカリーに似た食べ物のことだ。

 スバルの国のカレーという料理は、具材を一口サイズに切って煮込んで【白飯】にかけて食べるらしい。

 僕はスバルの記憶を共有しているから、その味を思い浮かべることができた。

 カレーライスも美味しそうだ。

 白飯とはちょっと違うけど、学食にはサフランの花の雌蕊で色付けしたサフランライスもあるよ。


(サフランライスもいいけど、俺はこのナンが好きだな~)


 スバルはナンを手でちぎってカリーをつけて口に放り込み、モグモグしながら満足そうに表情を緩める。

 感覚を共有している僕にも、適度な辛さに仕上げられたカリーの味や肉と野菜の食感、パリッとモチッと焼けたナンの美味しさが伝わってくる。


 バクバクと気持ちのいい食べっぷりで、スバルは大盛カリーとナンを完食してしまった。

 不思議なことに、満腹感はあるけど食べ過ぎて苦しいとか気持ち悪いとかは無い。

 スバルが転生したことで、身体に変化が起きているのかもしれない。


「ごちそうさま! すっごく美味しかったよ!」

「そりゃ良かった。よしよし綺麗に食べきったね」


 食器返却カウンターに置いた皿の上には、ミノタウロス肉についていた骨が残っているだけだ。

 スープも残さずナンで拭き取るくらいに食べきっているから、おばちゃんが満足そうに笑った。

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