学食のミノカリーとナンで腹も心も満たされた後、俺は学園の購買へ向かった。
買い物ではなく、スライムを倒して得た魔石を換金するのが目的だ。
魔石はエネルギー資源となるので、大体どこの店でも買い取ってくれる。
「研修初日で最奥まで行ったんだって? 凄いじゃないかアルキオネ」
褒めてくれたのは、購買スタッフのケラエノさん。
スライム魔石はボタン電池くらいの使い道があるらしい。
1個の買い取り価格は銅貨1枚だった。
銅貨1枚は街で小袋の菓子が1つ買える金額で、子供の小遣い稼ぎにちょうどいいくらいだ。
「20個か。入口から最奥までメイン通路のスライムを全部狩ったね?」
「うん」
「その頬の痣はスライムにやられたな? サービスで塗り薬をあげるからつけておくといいよ」
「ありがとう!」
ケラエノさんは傷薬をサービスしてくれた。
頬の痣はスライムにぶつかられたものだと思ったらしいけど、実際はスーフィーに魔法陣の上へ放り出されたときの傷だったりする。
スライムを狩る頃には防御力が高くなっていたので、ダメージは受けなかった。
(よっしゃ臨時収入! 菓子屋でも行こう)
俺はホクホクしながら街へ出かけた。
プロの冒険者なら装備に使うところだけど、学園にいる間は武器も防具も支給されるので買う必要が無い。
というわけで、俺はアルキオネの記憶にある菓子屋へ向かった。
甘い焼き菓子の香りが漂ってくる。
子供の頃に俺の母が焼いてくれたクッキーみたいな香りだ。
その香りに引き寄せられたのか、店の前に5人の子供たちがいる。
(あ、孤児院の子たちだ)
アルキオネの記憶によれば、その子供たちが自分と同じ孤児院の子だと分かる。
古着と思われるサイズの合っていないシャツ、膝に穴の開いたズボン、靴下は無く素足にボロボロの布靴を履いている、痩せた子供たち。
彼らが見つめる店内では、裕福そうな身なりの親子が菓子を買っている。
「コラッ! 商売の邪魔だ! あっちへ行け!」
買い物客を送り出した後、店主が子供たちに怒鳴った。
追い払われた子供たちが、ションボリしながら去っていく。
それはこの街では珍しくもない光景らしいけれど。
思わぬ臨時収入で財布の紐が緩んだ俺は、銅貨が詰まった布袋を握りしめて菓子屋に入った。
「おじさん、これで買えるだけお菓子を売ってくれる?」
「ん? ああ、まいどあり。ちょっとオマケしといたよ」
「ありがとう」
店主はちょっと怪訝な顔をしつつも、銅貨20枚分+オマケの焼き菓子を袋に詰めてくれた。
俺はそれを抱えて、孤児たちの後を追う。
「みんな待って!」
呼びかけると、聞き覚えのある声だからか全員立ち止まり振り返る。
追いついた俺は、5人の中で一番年上のアトラスに紙袋を手渡した。
「みんなでこれ食べて!」
「えっ?!」
「いいの?!」
焼きたての菓子から漂う、バターやバニラエッセンスみたいな香り。
子供たちが目を輝かせた。
「こんなにいっぱい、アルってばお金どうしたの?」
「授業でスライム倒したから、魔石を売ったんだよ」
「凄い、もう魔物を倒せたの?」
「うん。だからみんなにプレゼントだよ」
5歳のアトラスがお金の心配をしている。
俺は、やましい金ではないことを告げた。
「じゃあ、帰ってみんなでお菓子パーティしよう。アルも来てよ」
「OK」
アトラスに誘われて、俺も一緒に孤児院へ向かう。
学園の寮暮らしのアルキオネはもう孤児院を卒業している。
けれど、アトラスたちには今も仲間意識があるようだった。