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第7話:初めての収入と買い物

 学食のミノカリーとナンで腹も心も満たされた後、俺は学園の購買へ向かった。

 買い物ではなく、スライムを倒して得た魔石を換金するのが目的だ。

 魔石はエネルギー資源となるので、大体どこの店でも買い取ってくれる。


「研修初日で最奥まで行ったんだって? 凄いじゃないかアルキオネ」


 褒めてくれたのは、購買スタッフのケラエノさん。


 スライム魔石はボタン電池くらいの使い道があるらしい。

 1個の買い取り価格は銅貨1枚だった。

 銅貨1枚は街で小袋の菓子が1つ買える金額で、子供の小遣い稼ぎにちょうどいいくらいだ。


「20個か。入口から最奥までメイン通路のスライムを全部狩ったね?」

「うん」

「その頬の痣はスライムにやられたな? サービスで塗り薬をあげるからつけておくといいよ」

「ありがとう!」


 ケラエノさんは傷薬をサービスしてくれた。

 頬の痣はスライムにぶつかられたものだと思ったらしいけど、実際はスーフィーに魔法陣の上へ放り出されたときの傷だったりする。

 スライムを狩る頃には防御力が高くなっていたので、ダメージは受けなかった。


(よっしゃ臨時収入! 菓子屋でも行こう)


 俺はホクホクしながら街へ出かけた。

 プロの冒険者なら装備に使うところだけど、学園にいる間は武器も防具も支給されるので買う必要が無い。

 というわけで、俺はアルキオネの記憶にある菓子屋へ向かった。

 甘い焼き菓子の香りが漂ってくる。

 子供の頃に俺の母が焼いてくれたクッキーみたいな香りだ。

 その香りに引き寄せられたのか、店の前に5人の子供たちがいる。


(あ、孤児院の子たちだ)


 アルキオネの記憶によれば、その子供たちが自分と同じ孤児院の子だと分かる。

 古着と思われるサイズの合っていないシャツ、膝に穴の開いたズボン、靴下は無く素足にボロボロの布靴を履いている、痩せた子供たち。

 彼らが見つめる店内では、裕福そうな身なりの親子が菓子を買っている。


「コラッ! 商売の邪魔だ! あっちへ行け!」


 買い物客を送り出した後、店主が子供たちに怒鳴った。

 追い払われた子供たちが、ションボリしながら去っていく。


 それはこの街では珍しくもない光景らしいけれど。

 思わぬ臨時収入で財布の紐が緩んだ俺は、銅貨が詰まった布袋を握りしめて菓子屋に入った。


「おじさん、これで買えるだけお菓子を売ってくれる?」

「ん? ああ、まいどあり。ちょっとオマケしといたよ」

「ありがとう」


 店主はちょっと怪訝な顔をしつつも、銅貨20枚分+オマケの焼き菓子を袋に詰めてくれた。

 俺はそれを抱えて、孤児たちの後を追う。


「みんな待って!」


 呼びかけると、聞き覚えのある声だからか全員立ち止まり振り返る。

 追いついた俺は、5人の中で一番年上のアトラスに紙袋を手渡した。


「みんなでこれ食べて!」

「えっ?!」

「いいの?!」


 焼きたての菓子から漂う、バターやバニラエッセンスみたいな香り。

 子供たちが目を輝かせた。


「こんなにいっぱい、アルってばお金どうしたの?」

「授業でスライム倒したから、魔石を売ったんだよ」

「凄い、もう魔物を倒せたの?」

「うん。だからみんなにプレゼントだよ」


 5歳のアトラスがお金の心配をしている。

 俺は、やましい金ではないことを告げた。


「じゃあ、帰ってみんなでお菓子パーティしよう。アルも来てよ」

「OK」


 アトラスに誘われて、俺も一緒に孤児院へ向かう。

 学園の寮暮らしのアルキオネはもう孤児院を卒業している。

 けれど、アトラスたちには今も仲間意識があるようだった。

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