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第10話:セラフィナ

 この世界の生き物の中には【属性】をもつものがいる。

 火・水・風・土は先天性属性といって、生まれつきもっていることが多い。

 光と闇は後天性属性といい、経験などで後から得ることが多い。


 光属性は神職者が得る後天性属性だ。

 神様を信じ、教会で奉仕することで付与される。

 だけど稀に、生まれつき光属性をもつ女の子が生まれてくることがある。

 生まれつき光属性をもつ子は「神が遣わした聖女」として人々から崇拝され、教会で育てられるのが常だった。


「聖女じゃないのに光魔法が使えて、古代魔法文字が読める、アルは一体何者なの?」

「そ、そういうセラこそ、平民とは思えない知識があるみたいだけど、何者なの?」


 セラに真剣な顔で問いかけられ、スバルが少し圧倒されつつ訊き返す。

 2人きりの談話室。

 ミィファさんや他の子たちはまだ来ていない。


「私はちょっと【訳アリ】なの。魔法や古代文字は勉強していたから知っているわ」

「僕はこの孤児院の前に棄てられていた子で、今は冒険者学園の生徒だよ」


 セラも何か秘密を抱えているみたいだ。

 スバルもまさか転生者なんて言えないから、話せることだけ話している。


「……本当に男の子?」

「お、男だよ。孤児院のみんなに訊けば、間違いなく男だって教えてくれるよ」


 あちこち破れて繕った縫い目がある長椅子に並んで座り、セラが顔を見ながら近づいてくる。

 お金持ちの子が持つお人形みたいに綺麗な顔で近付かれると、物凄く照れちゃうね。

 スバルも照れているらしく、声がちょっと上擦っていた。


 そこまで話したところで、ドタドタと複数の足音が聞こえてくる。

 夕飯を済ませたアトラスたちが、談話室に入ってきた。


「あ! セラってば、こんなところにいた~!」

「ゴハン食べなきゃダメじゃないか」


 最初に入ってきたエレクが、セラを見て言う。

 続いて入ってきたアトラスは、咎めるように少し溜息をついて言った。


「……」

「ん?」

「あれ?」


 セラは急に黙り込み、少し怯えた様子でスバルにしがみついてくる。

 スバルがキョトンとしていると、室内に入ってきたアトラスたちも同じように首を傾げた。


「……言葉が分からない……。知らない人たち、怖い……」

「って、僕とは普通に話せてるよね?」


 セラの謎発言に、スバルも僕も疑問が増えるばかり。

 でもその理由は、すぐ明らかになった。


「えっ?! 2人ともなんて言ったの?!」

「外国語?」


 驚くアトラスたちの言葉を聞いて、スバルも僕も状況を把握した。

 スバルや僕は【言語理解】のパッシブスキルがあるから普通に会話ができるけど。

 孤児院のみんなが使う言語は【プレア語】というプレア王国内で使われるもの。

 セラは、それとは違う異国の言語を使っているんだ。


「だって、アルは私と同じメシエ語を話しているじゃない」

「メシエ語? 神聖王国メシエの言語?」

「そうよ。それにメシエ語で書かれた本を読んで光魔法まで覚えてるし」


 困惑しているアトラスたちを置き去りに、セラとスバルはメシエ語で話している。

 そこへもう1人、メシエ語が話せる人がやってきた。


「アル、もうメシエ語を覚えたのか。凄いじゃないか」

「なんて言ってるのか分からないけど、アル凄いわ」


 人数分のカップを運んできたのは、院長のバランさんとミィファさん。

 孤児院ではお茶は贅沢な嗜好品だから、お祝いの日にしか飲まない。

 今日はこれからお菓子パーティをするから、特別に淹れてくれたみたいだ。


「院長先生もメシエ語が話せるの?」

「ああ勿論。冒険者学園で習ったからな。アルは今月入学したばかりなのに、どうやってそこまでの域になったんだ?」

「ん~、なんて説明したらいいかなぁ」

「バランおじさまが教えたんじゃないの?」

「俺はずっと出かけてたから、全く教えてないぞ」


 メシエ語で話し込むスバル、院長先生、セラ。

 他の人たちは会話についていけないから放置して、お菓子とお茶に夢中になっている。


 その後、セラの通訳&プレア語の家庭教師に任命されて、スバルは学校帰りに孤児院へ通うことになった。

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