この世界の生き物の中には【属性】をもつものがいる。
火・水・風・土は先天性属性といって、生まれつきもっていることが多い。
光と闇は後天性属性といい、経験などで後から得ることが多い。
光属性は神職者が得る後天性属性だ。
神様を信じ、教会で奉仕することで付与される。
だけど稀に、生まれつき光属性をもつ女の子が生まれてくることがある。
生まれつき光属性をもつ子は「神が遣わした聖女」として人々から崇拝され、教会で育てられるのが常だった。
「聖女じゃないのに光魔法が使えて、古代魔法文字が読める、アルは一体何者なの?」
「そ、そういうセラこそ、平民とは思えない知識があるみたいだけど、何者なの?」
セラに真剣な顔で問いかけられ、スバルが少し圧倒されつつ訊き返す。
2人きりの談話室。
ミィファさんや他の子たちはまだ来ていない。
「私はちょっと【訳アリ】なの。魔法や古代文字は勉強していたから知っているわ」
「僕はこの孤児院の前に棄てられていた子で、今は冒険者学園の生徒だよ」
セラも何か秘密を抱えているみたいだ。
スバルもまさか転生者なんて言えないから、話せることだけ話している。
「……本当に男の子?」
「お、男だよ。孤児院のみんなに訊けば、間違いなく男だって教えてくれるよ」
あちこち破れて繕った縫い目がある長椅子に並んで座り、セラが顔を見ながら近づいてくる。
お金持ちの子が持つお人形みたいに綺麗な顔で近付かれると、物凄く照れちゃうね。
スバルも照れているらしく、声がちょっと上擦っていた。
そこまで話したところで、ドタドタと複数の足音が聞こえてくる。
夕飯を済ませたアトラスたちが、談話室に入ってきた。
「あ! セラってば、こんなところにいた~!」
「ゴハン食べなきゃダメじゃないか」
最初に入ってきたエレクが、セラを見て言う。
続いて入ってきたアトラスは、咎めるように少し溜息をついて言った。
「……」
「ん?」
「あれ?」
セラは急に黙り込み、少し怯えた様子でスバルにしがみついてくる。
スバルがキョトンとしていると、室内に入ってきたアトラスたちも同じように首を傾げた。
「……言葉が分からない……。知らない人たち、怖い……」
「って、僕とは普通に話せてるよね?」
セラの謎発言に、スバルも僕も疑問が増えるばかり。
でもその理由は、すぐ明らかになった。
「えっ?! 2人ともなんて言ったの?!」
「外国語?」
驚くアトラスたちの言葉を聞いて、スバルも僕も状況を把握した。
スバルや僕は【言語理解】のパッシブスキルがあるから普通に会話ができるけど。
孤児院のみんなが使う言語は【プレア語】というプレア王国内で使われるもの。
セラは、それとは違う異国の言語を使っているんだ。
「だって、アルは私と同じメシエ語を話しているじゃない」
「メシエ語? 神聖王国メシエの言語?」
「そうよ。それにメシエ語で書かれた本を読んで光魔法まで覚えてるし」
困惑しているアトラスたちを置き去りに、セラとスバルはメシエ語で話している。
そこへもう1人、メシエ語が話せる人がやってきた。
「アル、もうメシエ語を覚えたのか。凄いじゃないか」
「なんて言ってるのか分からないけど、アル凄いわ」
人数分のカップを運んできたのは、院長のバランさんとミィファさん。
孤児院ではお茶は贅沢な嗜好品だから、お祝いの日にしか飲まない。
今日はこれからお菓子パーティをするから、特別に淹れてくれたみたいだ。
「院長先生もメシエ語が話せるの?」
「ああ勿論。冒険者学園で習ったからな。アルは今月入学したばかりなのに、どうやってそこまでの域になったんだ?」
「ん~、なんて説明したらいいかなぁ」
「バランおじさまが教えたんじゃないの?」
「俺はずっと出かけてたから、全く教えてないぞ」
メシエ語で話し込むスバル、院長先生、セラ。
他の人たちは会話についていけないから放置して、お菓子とお茶に夢中になっている。
その後、セラの通訳&プレア語の家庭教師に任命されて、スバルは学校帰りに孤児院へ通うことになった。