学食を出た後、スバルは魔石を売りに購買へ向かった。
換金したら今回もお菓子を買うらしい。
購買スタッフのケラエノさんにスライム魔石を見せると、お得な情報を教えてくれた。
「今ならここじゃなくて、街の時計屋へ売りに行くといいよ。携帯用の時計に使う魔石が足りないみたいで、普段よりも高く買ってくれるからね」
「お! 素敵情報ありがとう!」
「僕の父さんの店なんだ。モントル時計店、学園の東門から出てまっすぐ3軒先の店だよ」
「行ってみる!」
ケラエノさんの実家、時計店なんだね。
スライム魔石は小さくてパワーが少ないけど、腕時計みたいな小型の魔道具を動かすにはちょうどいい。
スバルは早速時計屋へ向かった。
「こんにちは~、ケラエノさんからの紹介で魔石を売りに来ました」
「おお、助かるよ。冒険者学園の生徒かな?」
モントル時計店の店主リピエノさんは、ケラエノさんに似ている。
親子だなぁってスバルが心の中で呟いているよ。
「スライム魔石10コだね。状態もいいし息子の知り合いだから少し多めにお支払いしよう」
「ありがとうございます!」
普段の価格ならスライム魔石1コは銅貨1枚なのに、銅貨3枚になってる。
急ぎで必要な場合はこんなに高く買い取ってもらえるんだね。
「助かったよ、これで注文の品が仕上げられる」
「スライム魔石が不足するなんてこと、あるんですね」
話しながら、リピエノさんが馴れた手つきで腕時計に魔石を嵌め込んでいく。
スバルはその器用な手先に興味津々だ。
「プロの冒険者はスライムを狩らないからね。学生さんが頼りだけど、今年の1年生はほとんど魔石を売りにこないってケラエノが言っていたよ」
「そういえば僕のパーティの子たちも、スライム魔石を持ち帰らなかったです」
「勿体ないねぇ」
僕はトレミーたちがスライム魔石をゴミとか言っていたのを思い出した。
彼等はお金持ちの子だから、銅貨1枚を欲しいとは思わないんだろう。
リピエノさんがため息をついた。
「今月はあと2回かけだしダンジョンへ行くので、また手に入れたら売りに来ますね」
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
銅貨30枚入りの布袋をベルトポーチに入れて、スバルは店を出た。
菓子屋があるのは西門の方だから、噴水広場を抜けて西へ向かう。
(ん? なんか香ばしい醤油の香りが……)
噴水広場には屋台が並んでいる。
その中の1つが、スバルを引き寄せた。
(おおっ! 手焼き煎餅っ!)
スバルの記憶にある【焦がし醤油】と同じ香りが、僕にも伝わってくる。
丸くて平べったい、クラッカーとはちょっと違うそれは、東方の国ジャポン名物【センベイ】だ。
「お兄さん、これで買えるだけ煎餅をください」
「おお、まいどあり。少しオマケしとくからな」
「ありがとう!」
スバルは焼き立てのセンベイが入った紙袋を抱えて孤児院へ向かった。