焦がし醤油の香りを楽しみつつ孤児院の近くまで歩いて行ったら、門の前に誰かいる。
1人は高級そうなスーツ姿のオッサン、スラリとした長身で上品な感じの人だ。
その後ろにいる若い男は護衛の騎士かな? ハーフプレートメイルを着て腰に剣を差している。
もう1人のオッサンはアルキオネの記憶にある。この街の役場で働くジミーさんだ。
「こちらの男爵様が、金髪の女の子を探してらっしゃるんだ。先週来た子に会わせてもらえるかい?」
「分かりました。少しお話を聞いてから面会して頂きます」
「じゃあ、後は任せたよ」
ジミーさんは貴族のオッサンと騎士っぽいお兄さんをここまで案内してきただけらしい。
ミィファさんが2人の訪問を承諾すると、ジミーさんは帰っていった。
俺は無関係だから、邪魔しないように裏門へ回って孤児院の中へ入ろう。
談話室へ行くと、夕食を済ませた子供たちがそれぞれ好きに遊びながら過ごしていた。
ジェンガみたいな物で遊ぶのは、年長のアトラスとエレク。
トランプみたいなカードで神経衰弱っぽい遊びをしているのは年少のリック、ミラ、クロエ。
セラフィナは昨日俺が書いてあげたプレア語とメシエ語の比較ノートを眺めている。
「みんな~オヤツ買ってきたよ!」
「「「やったぁ!」」」
って俺が声をかけたら、全員一斉にこっち向いた。
年少の3人なんて歓声と共に飛び上がり、ダッシュでこっちへ来たよ。
わくわくしているみんなに煎餅が入った袋を手渡していたら、ミィファさんが男爵と護衛を連れて談話室に入ってきた。
「セラフィナ、やっと見つけたぞ」
「?!」
男爵はセラフィナを見た途端に声を上げて駆け寄る。
驚くセラフィナは抵抗する間も無く、男爵に抱き上げられた。
「保護してくれてありがとうございました。間違いなく探していた子です」
「では父が帰ったら伝えておきますね」
話しながら、男爵はセラフィナの顔を自分の胸で覆うように強く抱き締めている。
……あれ?
セラフィナが苦しがってるような?
みんな気付いてないのか?
「おじさん、そんなに強く抱き締めたらセラが窒息しちゃうよ」
俺は男爵に声をかけた。
男爵はジロッとこちらを睨むだけで、セラフィナを抱き締める力を弱める様子は無い。
……なんかおかしい。
すると、セラフィナが俺の声に反応して片手をこちらへ伸ばしてきた。
まるで、助けを求めるように。
俺は直感で行動に出た。
スキル:スライムアタックLv1
手乗りサイズのスライムが、男爵の眉間に連続ヒット!
男爵は仰け反り、セラフィナは宙へ放り出された。
「何っ?!」
護衛の男が驚き、反射的に剣の柄に手を添える。
そんなのには構わず、俺は床を蹴って空中でセラを抱き留め、着地するとバックステップで男爵から離れた。
女神様チートのおかげで、アルキオネの身体能力は大人よりも高い。
護衛が反応するよりも、俺の方が早かった。
「セラ、大丈夫?!」
俺が問いかけると、やっと呼吸ができるようになったセラがゼエゼエと息を乱しながらコクンと頷く。
もう少し遅かったら、セラは意識を失っていたかもしれない。
スライムアタックで気絶した男爵は、床に倒れて動かなくなった。
他のみんなは何がなんだか分からず、困惑するばかり。
護衛の男も状況が分からず、呆然としていた。