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第16話:男爵とセラフィナ

「アル?! 一体何がどうなってるの?」

「坊や、私よりも早く反応するなんて凄いな」


 スバルとセラフィナ以外みんな呆然とする中、最初に我に返って問いかけたのはミィファさんだった。

 続いて護衛騎士の人も声をかけてくる。


 セラフィナが窒息しかかってたの、誰も気付かなかったんだろうか?

 でも男爵様はスバルに言われて気付いた……というか、知っててギュウギュウ抱き締めていたよね?

 なんであんなことしたんだろう?


「男爵様がセラを落としたから受け止めたんだよ」

「アリガ……トウ」


 スバルはセラが窒息しかかってたことや、スライムアタックで男爵様を気絶させたことは言わなかった。

 男爵様は気絶しちゃったし、他の人は気付いてないから今は黙っておくつもりらしい。

 セラフィナは、スバルに抱えられたままホッとしたように片言のプレア語で礼を言って微笑んだ。


「男爵様、どうされたのかしら?」

「御当主様? どうなさいましたか?」


 一方、仰向けに倒れて気絶している男爵様を見て、ミィファさんは首を傾げる。

 護衛騎士さんが傍らに跪き、男爵様に呼びかけている。

 でもスライムアタックで眉間を、床で後頭部を強打した男爵様は、ピクリとも動かなかった。


 スバルが放ったスライムアタックは、誰にも気付かれなかったらしい。

 予備動作も何も無くいきなりスライムが高速で飛んだから、孤児院のみんなには目視できなかったんだろうね。

 騎士さんは男爵様の後方、壁際で待機していたから特に見えにくかったかも。


「貧血でも起こされたのかしら? アトラス、お医者様を呼んできて」

「は~い!」


 ミィファさんに言われて、アトラスがお医者さんを呼びに走って行った。

 白目を剥いてひっくり返っている人を見るのは初めてな子供たちが、男爵様の周囲に群がる。


「おじちゃん、どうしたの?」

「触っちゃ駄目よ。頭を打ってるみたいだからお医者様に任せましょう」


 ミィファさんはそう言うと、エレク、リック、ミラ、クロエをまとめて優しく押し出すように部屋の外へ向かわせた。

 4人の子供たちはさっき配られたセンベイの袋を大事そうに両手で抱えたまま、それぞれの部屋へ帰っていく。


「セラはパパに付き添う?」


 ミィファさんはスバルに抱えられたままのセラフィナを見て問いかけた。

 セラフィナはまだプレア語がよく分からないのでスバルが通訳すると、ちょっと顔をしかめて首を横に振る。


「そう、じゃあお部屋に戻っていてね」


 ミィファさんはちょっと怪訝な顔をしつつも、無理に付き添わせることはしないらしい。

 再びスバルの通訳で何を言われたか理解したセラフィナは、今度は首を縦に振った。


「アル、このまま私を部屋まで運んでくれる? 話したいことがあるの」

「いいよ」


 セラフィナにメシエ語でお願いされてスバルは頷き、彼女を横抱きにしたまま歩き出した。

 話したいことって何だろう?

 ミィファさんは男爵様をセラフィナのパパだと思ってるけど。

 スバルは、何かおかしいと思っているみたいだ。

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