俺はセラフィナを抱えたまま、彼女の部屋まで歩いていった。
彼女が言う「話したいこと」とは何か?
多分、彼女がここに来た経緯についてだろうと思う。
部屋の扉は、セラフィナがドアノブに手を伸ばして開けてくれた。
閉めるときはケツで押せばいいので、両手が塞がっていても大丈夫。
孤児院の子供部屋はシンプルな造りで、飾り気のない木製のベッドと机と椅子があるだけだ。
「一緒にベッドに入って」
「えっ?」
「大丈夫、変なことはしないから」
「変なことって……」
「知りたい?」
「い、いや、今はいい」
セラフィナ、君は一体何歳だ?!
見た目はアルキオネと変わらない歳っぽいが、言動は俺と同じくらいの歳に思える。
色々ツッコミどころはあるが、俺は彼女をベッドの上に座らせた後、導かれるままに布団の中へ潜り込む。
添い寝の体勢になり、何故かセラフィナは布団を頭の上までスッポリ被せた。
「他の人に聞かれたくないから、小さな声で話してね」
「わかった」
彼女の意図はすぐに理解した。
初めて話した日、セラフィナは「私はちょっと【訳アリ】なの」と言っていたから、それについて話したいのだろう。
美少女と添い寝なんていうシチュエーション、中身20歳の俺からしたら下半身が元気になりそう。
おまけにセラフィナは、俺の耳に息がかかるくらい顔を近付けて話し始めるし。
しかしそこは第二次性徴が始まる前の6歳児、アルキオネの身体は何も反応しなかった。
「まず最初に言っておくわ。あの男は私の父じゃないの」
「だと思ったよ」
「驚かないのね」
「だってあの抱き締め方、セラが苦しがってるって教えてもやめようとしなかったし」
最初の話は予想通りだ。
本当の親なら、まして行方不明の我が子を探しに来るぐらいなら、子供のことを一番に考える筈。
たとえ下賤な者が言うことでも、我が子が苦しがってるなんて聞いたらすぐに抱き締める力を緩めるだろう。
でも男爵はまるで「余計なことを言うな」って感じで俺を睨んだだけだった。
「あれは私を気絶させて、そのまま連れ去るつもりだったんでしょうね」
「あいつは君を殺す気? 呼吸停止で意識不明なんて、すぐ蘇生しなきゃ危ないよね?」
「アルは本当に6歳? 随分難しい言葉を知ってるのね。しかも母国語じゃないのに」
「俺も【訳アリ】なんだよ」
「そう。後でアルも秘密を教えてくれる?」
「いいよ」
俺はこの少女になら、自分のことを話してもいいと思う。
アルキオネを演じるのをやめて、自分本来の口調に変えた。
セラフィナも俺になら秘密を打ち明けてもいいと思ったらしい。
木造オンボロ建物の壁は薄い。
ここは角部屋で、隣室はミラとクロエの2人部屋。
壁の向こうから煎餅を齧る音や楽しそうに話す声が聞こえてくる。
セラフィナと俺は、部屋の外に声が漏れないように布団の中に潜ったまま密談を続けた。