「私のフルネームはセラフィナ・リュエル・メシエ。神聖王国メシエの第五王女で、聖女でもあるの」
「平民にしては髪や手が綺麗だなと思ったら、王族だったのか」
布団の中で声をひそめて話すセラフィナの秘密は、スバルがなんとなく予想していたことだった。
セラフィナの膝の辺りまである長い金髪はツヤツヤしていて、枝毛が見当たらない。
平民の子供なら家事手伝いによる手荒れがあるけど、セラフィナの手は綺麗だ。
多分お金持ちか貴族の子だろうってスバルは思っていた。
「さっきの男爵はバロウズという貴族で、私の兄の家臣よ。ここへ来た理由は、私が持つ聖石を奪う為ね」
「聖石?」
「ここにあるわ」
「?!」
セラフィナはスバルの片手をそっと掴んで、自分の胸の方へ引き寄せる。
その行動は想定外だったみたいで、スバルがちょっと慌てて固まった。
(あ、まだ成長前か)
って、スバルが心の中で呟いて冷静になる。
感覚を共有している僕にも、掌からセラフィナの身体の温もりが感じられた。
でも大人の女の人みたいな膨らみは無い。
スバルはホッとしたような残念なような、複雑な気持ちになっていた。
「残念だった? あと2~3年経ったら膨らんでくるから待っててね」
「?!」
セラフィナの発言が、スバルをまた固まらせる。
彼女は、本当は何歳なんだろう?
見た目通りの年齢じゃないなとスバルも僕も思った。
「話がズレちゃったけど、聖石というのは私の心臓のことよ。聖女は死ぬと心臓が真紅の大きな宝石になり、光の力がそこに残されるの」
「じゃあ、それを奪うということは……」
「私を殺して、心臓を抉り出すつもりでしょうね。兄は光の力を持っていないけれど、聖石を得れば光の力を使えるから」
「最低な兄貴だな。力を得る為に妹を殺そうとするなんて……」
話していて怖くなったのか、セラフィナはスバルに抱きつく。
スバルは慰めるように、セラフィナの背中に腕を回して優しく抱き締めた。
「兄とバロウズが私を殺す話をしているのを、私は偶然聞いてしまった。そのショックで前世を思い出して、その知識に導かれて城から脱出したの。森の中でバランに保護してもらえたのは幸運だったわ」
「……ちょっと待った。今サラッと【前世】って言った?」
「ええ、言ったわ。私の前世は14年前に殺された聖女ソフィエ。20歳くらいまで生きた記憶があるの」
セラフィナの話を聞いていたスバルは、彼女の言葉の中に予想外の単語があることに気付いて訊いた。
彼女が見た目通りの年齢じゃない気はしていたけれど。
セラフィナも僕たちと同じで、子供の身体に大人の心と記憶が入ってしまったのか。
「院長はこのことを知ってるのか?」
「いいえ。奴隷商人に売り飛ばされそうになって逃げてきたと話したわ」
確認してみると、セラフィナは今まで誰にもこの話をしたことが無かったらしい。
つまり、全てを知っているのはスバルと僕だけだ。