「メシエでは聖女は大いなる力を持つ代わりに短命と言われているけど、実際は法王となる者が聖石を得る為に殺していたの。私の前世ソフィエも、当時の王太子の為に殺されたわ」
「神聖王国、裏を返せば邪悪だな」
声をひそめて話すセラフィナは、前世の死の記憶が怖いのか微かに震えている。
俺は彼女を包むように抱いて、後ろ頭を撫でてあげた。
死なせたくない、護りたいという思いが湧いてくる。
バロウズ男爵には絶対に渡せない。
ミィファさんは事情を知らないから、説明した方がいいだろうな。
「私の秘密は話したわ。次はアルの秘密を教えて」
しばらく撫でていたら震えが治まったセラフィナが、俺にピッタリ身体をくっつけたまま言う。
中の人は20歳くらいだが、残念ながら身体は6歳児なので色っぽい展開は無いようだ。
「セラなら予想しているだろうけど、俺も前世の記憶がある転生者だよ。20歳まで生きた記憶がある」
「やっぱりそうだったのね」
「でも俺の前世はこの世界で生きていた人間じゃない。異世界転生っていうやつで、違う世界で死んだ人間の魂を女神リィン様がこちら側にいる子供に宿らせたんだ」
「異世界からの転生もあるのね」
続く布団の中の密談は、俺に関することに移行した。
セラフィナは興味深そうに聞いている。
「俺が古代魔法文字を読めるのは、異世界転生者特典の【言語理解】があるから。光の力が使えるのは、【全属性】があるからだよ」
「異世界転生ってお得なのね」
「他にも色々な加護を貰ってるから、セラの力になれると思う」
「アルは、私を護ってくれるの?」
「うん。転生者パワー全開で護るよ」
「ありがとう」
俺はセラフィナを護ると誓った。
布団に潜って抱き締め合っているので顔は見えないけれど、セラフィナが微笑んだ気がする。
話し込んでいる間に就寝時刻になったらしく、隣室が静かになっていた。
幼い子供ばかりの孤児院では、日が沈んでしばらくすると大体みんな寝てしまう。
「アル、今夜はここにいて。バロウズは今夜仕掛けてくる筈よ」
「勿論そのつもり。あいつらが行動に出るとしたら院長不在を知ってる今夜だよね」
セラフィナの予想は俺と同じだ。
父親のフリをして連れ去る計画が失敗なら、次の手を打ってくると思う。
スライムアタックを食らって倒れた男爵は病院へ運ばれたみたいだけど、脳震盪を起こした程度だから今頃は回復しているだろう。
貧乏孤児院のセキュリティはよろしくない。
男爵たちが真夜中に忍び込んでも、眠っている子供たちやミィファさんは気付かない。
「俺たちだけでなんとかするしかないな」
「そうね」
布団の中の密談が、不法侵入者対策の話題に移行した。