冒険者学園に入学して1ヶ月が経った。
最初の1ヶ月はクラス内抽選によって決まるパーティに所属が必須だったけれど、その期間を過ぎれば自由に組むことができる。
「アルキオネ! お前をパーティから追放する!」
教室内で、トレミーがふんぞり返って言い放つ。
トレミーの両脇には、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべるスーフィーとハインドがいる。
クラスの生徒たちは、遠巻きにしながらその様子を眺めていた。
……追放も何も、今日で解散だが?
俺は自分の席に座ったまま、黙ってトレミーを見つめる。
今は放課後で、先生はいない。
いたとしてもトレミーの親に金を積まれているから、我関せずという対応をするだろう。
「お前は学校の備品を雑に扱って壊してしまったり、パーティを置き去りにしたり、行動に問題があり過ぎるからな。もう一緒にダンジョンへ行ってやることはできない」
上から目線で偉そうにトレミーが言う。
そうだそうだと相槌を打つのがスーフィーとハインド。
その言葉、そっくりそのまま返してやりたい。
ダンジョン研修初日に撮影用魔道具を壊したのはハインドだ。
呪いの魔法陣にアルキオネを無理やり乗せた後、置き去りにしたのは意地悪トリオの方だ。
腹立たしくはあるが、これで面倒くさいトリオと一緒にダンジョンへ潜らずに済む。
俺は引き続き黙っておくことにした。
「そうそう、クラスのみんなもお前とは組みたくないそうだぜ」
「これでお前はソロ決定だな」
「ソロじゃダンジョン使用許可が下りないな。留年確定おめでとうアルキオネ」
同じような腹黒スマイルを浮かべながら、意地悪トリオが口々に言う。
どうやら、クラスのみんなに金か物を与えて根回ししたようだ。
クラスの面々は俺が見回すと一様に目を逸らしている。
さて、困ったぞ。
意地悪トリオからの解放は万々歳だが、誰ともパーティを組めないのではダンジョンに入れない。
プロの冒険者になればソロで潜ることが可能だが、学生のうちは2人以上でないとダンジョン使用を許可してもらえないんだ。
「来年の1年生たちがお前と組んでくれるといいな」
「まあ無理だと思うけど」
「誰も落第生とは組みたがらないかもしれないぞ」
まるで俺の留年が確定したように、トレミーたちがニヤつきながら言う。
それはつまり、来年の1年生たちにも根回しするってことだろう。
普通そこまでやるか?
こいつら、どんだけ金の無駄遣いする気?
そこまでアルキオネをいびり倒して何の得があるというのか?
「意地汚いお前は学食でメシが食えれば満足かもしれないが、留年は3回までだからな」
「4回目は退学だぜ」
「冒険者ギルドは退学した奴を登録させないから、お前もう冒険者になれないな」
勝手に俺の未来を予想して意地悪トリオが言う。
言いたいことはそれだけか?
俺は腹立たしく思いつつも表情には出さず、黙って席を立つ。
ここにいても時間の無駄にしかならない。
教室を出て歩き出すと、トレミーたちが下品に大爆笑する声が廊下の端まで響いていた。