3人がかりでくるかと思ったら、2人か。
スーフィは何か言いたそうな顔でこちらを見るだけで、殴りかかってこない。
意地悪トリオの中でスーフィーだけは俺が魔法を使ったところを見ているから、風魔法による反撃を警戒してるんだろう。
トレミーとハインドは、2人がかりなら俺を制圧できると考えたようだ。
彼等も今日フェヴリエ洞窟に行った筈だけど、スキルは取らなかったんだろうか?
多分、ゴミだとか言って使わずにカードを先生に提出したんだろうな。
「ゴミスキルで勝てると思うなよ!」
って拳を振り上げるトレミーは、こちらを完全に舐め切っている。
そんな大振りの遅い攻撃、スキル使うまでもないっての。
俺はトレミーのパンチと同じ方向へ1歩後退し、前のめりになったトレミーの顎を蹴り上げるようにバク転した。
所謂サマーソルトキックってやつだ。
トレミーが仰け反るように吹っ飛んで、地面に転がる。
「俺が躾けてやるよ!」
って顔めがけて拳を突き出すハインドは、母親の顔を傷つけられて冷静さが無いな。
俺はそのパンチを片手で掴むように止めた後、もう片方の手をハインドの腕に添え、身を翻した後に背負い投げで地面に叩きつけた。
「顔は傷付けるなと言われてなかった? まあそんな遅い攻撃、食らうわけないけど」
2人が倒れて起き上がれなくなったところで、俺は言ってやった。
トレミーもハインドも、地面に横たわり痛みに顔をしかめながら、悔しそうに俺を睨んでいる。
格闘ゲームをやり込んだゲーマー舐めんな。
フルダイブ型アクションゲームで他プレイヤーとの対戦を繰り返した俺の経験は、異世界転生しても継承されている。
格闘技術、相手との駆け引き、動体視力、瞬時の情報処理能力、俺が積み重ねた全てが転生でアルキオネの身体に引き継がれた。
だから、こんな素人みたいな攻撃を食らうわけがない。
「これでも冒険者に向かないから退学しろと言いますか? なら、2人がかりで俺に負けた貴方の息子も退学した方がいいですね」
俺はユピテルに冷ややかな視線を向けて言う。
ユピテルは信じられないものを見たという感じで、呆然としている。
俺はそれに構わず、地面に座り込んでハンカチで鼻を押さえている赤いドレスのケバい女に歩み寄った。
「なっ、なによ!」
強気で言うが、ユノとかいう名前の女は逃げ腰だ。
嫌な奴だが女の顔に傷を残す気は無いので、俺は彼女の前で片膝をついて屈むと、片手を翳して治癒魔法を起動した。
「
「?!」
呟くと、ユノの鼻の辺りが燐光に覆われる。
その光が見えたことと、痛みが消えたことで、ユノは治癒魔法に気付いたらしい。
「何故……?」
「顔は女の命なんだろ? 傷を残して逆恨みされたくないからな」
ユノの問いは「何故6歳の孤児が治癒魔法が使えるのか?」だろう。
俺はそれには答えず、治した理由を答えた。
もう敬語を使う気にもならない。
「俺は退学する気は無いし、奴隷にも男娼にもなる気も無い。悪ガキ共が攻撃してきても返り討ちにする。金の力で教師や生徒を操ろうとしても、応じない人間もいるから無駄だぞ」
俺はユピテルを睨み、お前の企みなんかもう知ってるぞという意味をこめて告げる。
そちらにも敬語は無しだ。
ユピテルは呆然としながら沈黙を続けた。