「驚いたな。アルはそんなに強くなっていたのか」
背後から聞こえた声の主が誰か、僕はすぐに分かった。
スバルが振り返って見た場所に、冒険者の装備を着けたバランさんがいる。
飾り気のないバスタードソードを背負い、胸や手足を部分的に革鎧が覆っている。
生まれついた能力には恵まれなかったけれど、人より多く訓練を重ねて強くなった人だ。
「アル凄い! ビックリしたよ!」
バランさんの隣には、孤児院で一番速く走れるアトラスが立っていて、興奮気味に言う。
今日のバランさんはギルドに納品とクエスト完了報告をしてから帰ってくる予定だったけど、アトラスがギルドハウスまで走って呼びに行ったのかな?
「ユピテル、ユノ、うちの子を奴隷や男娼にするつもりは無い。帰れ!」
「ヒィッ!」
「か、帰るわよっ!」
バランさんが厳しい顔で怒鳴る。
孤児院の子供たちには見せたことがない、強い怒りの表情だ。
ユピテルさんは短い悲鳴を上げて、トレミーに駆け寄って引っ張り起こす。
ユノさんも慌てて言うとハインドに駆け寄り、腕を引いて起き上がらせた。
スゴスゴと逃げ帰る2組の親子の後ろに、こちらをチラッと見たスーフィーが続く。
睨みながらそれを見送った後、バランさんは表情を和らげて屈むと、スバルに目線を合わせてきた。
「アル、よく頑張ったな。あれだけ闘えるようになるまで、たくさん練習をしたんだろう?」
「バランさんの努力に比べたら、大したことないけどね!」
バランさんに褒められて、スバルも気持ちが和らいだのか笑って答える。
トレミーたちを圧倒したのは、スキルでも魔法でもない。
スバルが積み重ねた努力の結果だ。
「アルはこれからもっと強くなると思うぞ。……さて、家に入るか」
「「「アル~っ!」」」
「わるいこ、やっつけた?」
話しながらバランさんが孤児院の扉を開けると、エレク、リック、ミラが一斉に走ってくる。
ちょっと遅れながらクロエも走ってきた。
「大丈夫? 怪我は無い?!」
「アル、カッコ良かったよ」
ミィファさんはさすがに廊下を走らないけど、早足で歩いてくる。
最後に歩いて来たセラフィナは、最近話せるようになったプレア語で言いながら微笑みかけてきた。
「あの後ろへ宙返りしながらキックする技、どうやって覚えたの?!」
「腕を掴んで投げ飛ばすやつ、どうしたらあんな風に投げられるの?!」
談話室へ移動した後、エレクとリックが興奮気味に聞いてくる。
孤児院のみんなは、窓からコッソリ外の様子を見ていたらしい。
「あ~、あれはこうやって……こうだな」
スバルは苦笑しながら、実際に動いて見せたりしながら説明する。
アトラスたちがお~っ! って盛り上がるのを、バランさんがニコニコしながら眺めていた。