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第30話:先輩たちの提案

「アル、飛び級してみないか?」


 学園生活が3ヶ月を過ぎた頃。

 1年生が攻略する義務がある初級ダンジョンを全てクリアしたスバルに、ミュスクルさんが言った。

 飛び級とは、年齢に関係なく上の学年に進むこと。


「1年生は週1回しかダンジョンに行けないでしょ? 2年生になれば回数制限から解放されるし、中級ダンジョンにも行けるわ」

「アルみたいに上級生とパーティ組んだ子は、みんな飛び級しているよ」


 シェリーさんとミニョンさんも言う。

 冒険者学園は主にダンジョン攻略を学ぶ学校だ。

 通常は4人パーティで月に1つ、夏休みや冬休みを除く10ヶ月で10のダンジョンをクリアする。

 スバルは週に1つのペースになっているので、3ヶ月以内に10のダンジョン攻略を完了してしまった。


 今日はパーティメンバー揃ってモントル時計店にお邪魔中。

 魔石の売却を済ませた後、お客さんの休憩スペースを借してもらい、今後について話している。


「中級からは魔物が強くなるけど、今のアルなら問題無く倒せると思うぞ」

「それに風属性をもつアルが参加してくれたら、私たちも助かるわ」

「アルは物理も魔法もこなせて治癒魔法も使えるから、遊撃を担当してほしいな」

「それに学年が変われば校舎が変わるから、意地悪トリオともサヨナラできる筈だよ」


 ミュスクルさん、シェリーさん、ミニョンさんに続いて、ニコニコしながらリピエノさんも言う。

 トレミーたちは意地になっているのか、相変わらず放課後に校庭を歩いていると絡んでくるんだ。

 特に魔法を使えるトレミーがしつこくて、火の玉や氷の塊や石礫が毎日のように飛んでくるよ。


(そっか、校舎が違えばあいつらに遭遇する率も減るのか)


 先輩たちに薦められて、スバルは少し考えた。

 学園の敷地は広く、学年ごとに校舎は別になっている。

 1年生の校舎は初級ダンジョン入口が点在する森に隣接、2年生の校舎は中級ダンジョン入口が点在する森に隣接していて、かなり離れていた。


「僕、飛び級したいです」

「なら明日にでも申請しに行こう」


 飛び級する意思を固めたスバルに、先輩たちとリピエノさんが満足そうに微笑んだ。



 翌朝。

 スバルは先輩たちに付き添われて、担任のアンティ先生がいる職員室を訪れた。


「ではこの申請書に記入と、能力チェックをしよう」

「はい」


 アンティ先生は事務用の机の上に1枚の紙と板状の魔道具を置いて言う。

 スバルは申請書にサラサラと書き込んだ後、魔道具のパネル上に片手を置く。

 能力チェック用の魔道具は、すぐに能力測定結果用紙を吐き出した。


 3ヶ月前、僕はその魔道具で自分の能力値を知ってガッカリしたけど。

 今は女神様による加護で能力値が変わったことを知っている。

 スバルも知ってるから紙を見ても特に驚くことはなく、平然としたまま先生に結果用紙を手渡した。


「どれどれ……えっ、これはっ?!」


 結果用紙を見た途端、アンティ先生は目を見開いて二度見した。

 まあ、驚くよね。

 魔力が「∞」なのは前と同じだけど。

 他の能力値は全て「劣」だった筈なのに、「優」に変わってるんだから。


「今の能力値こんな感じでした」

「おぉっ?! アル凄いじゃないか!」

「どうりで初級ダンジョンが楽勝だったわけね」

「中級が楽しみだね~」


 スバルは結果用紙を先輩たちにも見せた。

 恥じなくてもいい結果だし、先輩たちの反応はトレミーたちとは全然違う。


「3ヶ月前の結果は不具合だったのか……?」

「飛び級、できますか?」

「勿論だ。君ならSクラス冒険者を目指せる気がするよ」


 呆然とするアンティ先生はスバルに問われて我に返り、飛び級承認を告げた。

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