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第32話:召喚対策の基本

 女神リイン様からゲームという形で僕が生きた6年間を伝えられた転生者スバル。

 彼は、暇さえあれば攻略情報収集と称して図書館の本を読んでいた。

 図書館には様々なジャンルの本が揃えられているけれど、スバルは魔法書の他に魔道具の情報を記した本も好んで読んでいる。

 その本には、特定の魔物を召喚・使役する魔道具も記載してあった。


「ぎゃははは! どこまで逃げられるかなぁ?」

「体力【劣】で何分もつか見物してやるよ!」


 トレミーがゲラゲラ笑いながら言う。

 意地悪く顔を歪めてハインドも笑う。

 スーフィーはまるで観察するように真顔でこちらをジッと見つめている。


 彼等は、女神様の加護で上昇した身体能力値を知らない。

 だけど身体を動かすことに長けたスーフィーには、ゴーレムが作り出す檻から跳躍して逃げ続けるスバルの敏捷や体力が本当に【劣】なのか疑問に感じるのかも。


(魔道具召喚ゴーレムの動力源は、確か魔石だったか。しかし硬い岩の中にある魔石を砕くのは手間だな)


 ゴーレムのスキルを躱しながら、スバルは何か考えていた。

 地面から生えてくる長い牙のような岩が、スバルを捕らえようと囲む。


(ってことで、召喚系対策の基本でいくか)


 ドーム状に伸びる岩を軽々と飛び越えた後、スバルは地面を蹴ってダッシュする。

 スバルのゲーム知識と図書館の本からの知識が、ゴーレム対策を導き出した。


「ぎゃははは……は?」


 笑い続けていたトレミーが気付いたときにはもう遅い。

 ハインドは勿論、敏捷が高いスーフィーすらも反応できない。

 スバルはトレミーめがけて突進すると、その勢いのままに全力グーパンを食らわせた。


「グボッ!」


 鳩尾に拳を叩き込まれ、その勢いにフッ飛ばされたトレミーが白目を剥く。

 トレミーが気絶した直後、ゴーレムはピタリと動きを止めて崩れ始めた。


「トレミー! おい、起きろよ!」


 地面に仰向けに倒れたまま動かないトレミーに、ハインドが慌てて駆け寄った。

 ハインドは必死で呼びかけながら、トレミーの両肩を掴んで引き起こして揺さぶる。

 けれど、トレミーは白目を剥いたままガクンガクン揺れるだけだった。

 魔法使い系のステータスをもつトレミーは、火力はあるけど防御は低い。

 体重を乗せた重いパンチを食らったら、しばらく動けないだろうね。


「な……なんなんだよ、お前……」

「召喚対策といったら、操っている者を倒すのが基本だろ」


 スーフィーが青ざめて問う。

 ゴーレムが消えた後に転がる茶色い玉を拾いながらスバルが答える。

 でも、スーフィーが聞きたいのはそれじゃなかった。


「なんで筋力や敏捷が【劣】のお前に、あんな動きができる? ありえないだろ!」

「あ、そっちか。飛び級の手続きしたときの能力チェック表、見る?」


 動揺するスーフイーの背後で、トレミーの両肩を掴んで揺すっていたハインドもこちらを向く。

 対するスバルは冷静で、ベルトポーチから1枚の紙を取り出して広げた。


「はいこれ。俺の今の能力値」

「……うそ……だろ……」

「……ありえねぇ……」


 スバルは広げた紙を、スーフィーに見えるように両手で持って掲げる。

 スーフィーに見せた後、ハインドに歩み寄ってまた掲げる。

 明かされた能力値の変化に、スーフィーもハインドも茫然としてしまった。

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