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第34話:夏休みの船旅

 冒険者学園の夏休み、スバルはリピエノさんの誘いで貿易船に乗せてもらった。

 ケラエノさん、シェリーさん、2年生パーティのみんなも一緒だよ。

 リピエノさんてば太っ腹で、ミィファさんや孤児院のみんなも乗せてくれた。


 僕は船に乗るのは初めてで、凄くワクワクする。

 スバルは元いた日本という国が小さな島国だから、船には何度か乗ったことがあるらしい。

 でも帆船に乗るのは初めてで、白い帆を見上げて「海のロマンだ」とか心の中で呟いていたよ。


「うわぁ、海綺麗! 沖縄の海みたいだ!」

「アル、お前は初めて見るのによくこれが【海】だと分かったな」

「オキナワってなぁに?」

「えっ?! ほ、本で見たんだよ」


 危ない危ない。

 海が綺麗過ぎて感動したスバルが、ウッカリ元の世界の地名を口走っちゃったよ。

 赤ん坊の頃から僕を育ててきたバランさんとミィファさんが、怪訝な顔して聞いてきた。

 バランさんもリピエノさんから依頼を受けて、冒険者パーティのメンバーと共に依頼を受けて同行している。

 ……なんとかごまかせたかな?


「アルってば、ウッカリさんね」

「あはは……」


 後でセラフィナにコッソリ耳打ちされて、スバルは苦笑した。

 異世界転生者ってことは、セラフィナとの2人だけの秘密だ。


 宝石みたいに煌めくマリンブルーの海を、白い帆を広げた帆船が進む。

 出発してしばらく経つと、はしゃいでいた孤児院の子供たちが静かになった。


「うぅ……気持ち悪い……」

「み、みんな……とりあえず横になりましょう……」


 って言って、みんな青ざめているよ。

 ミィファさんまで体調不良だ。

 スバルの知識によれば、【船酔い】というものらしい。


「アルは初めてなのに平気そうだな」

「うん、なんともないよ」


 船旅になれたバランさんは平気そう。

 スバルもへっちゃらだ。

 僕の身体は女神様の加護に【状態異常抵抗】があるから、船酔いにはならないらしい。


「アル、状態異常解除の光魔法を教えてあげる」


 子供たちの中でもセラフィナだけは平気そうだ。

 彼女はスバルに新しい光魔法を教えてくれた。

 船室にあるメモ用紙とペンを使い、何も見ずにサラサラと魔法の術式を書き上げられるなんて、セラフィナは凄いなぁ。

 その文字をスバルが片手の指先でなぞると、脳内に魔法の術式が刻まれた。


「練習代わりに、アトラスたちに使ってみて」

「OK」


 セラフィナとスバルが隣の大部屋へ向かう。

 たくさんのベッドが並ぶ部屋の窓は開け放たれていて、涼しい風が流れ込んでいた。

 ベッドの上にはミィファさん、アトラス、エレク、リック、ミラ、クロエが横たわっている。

 出港したときはみんな大はしゃぎで、騒がしいくらいだったのに。

 今はシーンと静まり返っていて、みんな青白い顔で目を閉じて眠っている。


 スバルは部屋の真ん中に立ち、祈るように両手を組んだ。

 セラフィナは戸口に佇んで見守っている。


状態異常解除アヌレイション


 スバルが小さな声で呟くと、魔法が起動し始める。

 組んだ両手から、淡い緑の光が湧き出てくる。

 光は急速に範囲を広げて、ベッドで眠る5人を覆う。

 眠り続ける6人の顔色が良くなり、苦しそうだった表情が安らいで、気持ちよさそうな寝顔に変わった。


「始めてとは思えないくらいアッサリ使いこなすわね。それもゲームの知識?」

「うん。状態異常の解除系はRPGでよく使う魔法だよ」


 教えた魔法が予想以上に大成功で、セラフィナは少し驚いている。

 魔法はイメージが掴めないと上手く発動しないのだけど。

 スバルは前世で遊んだゲームを参考に状態異常解除魔法を使った。


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