冒険者学園の夏休み、スバルはリピエノさんの誘いで貿易船に乗せてもらった。
ケラエノさん、シェリーさん、2年生パーティのみんなも一緒だよ。
リピエノさんてば太っ腹で、ミィファさんや孤児院のみんなも乗せてくれた。
僕は船に乗るのは初めてで、凄くワクワクする。
スバルは元いた日本という国が小さな島国だから、船には何度か乗ったことがあるらしい。
でも帆船に乗るのは初めてで、白い帆を見上げて「海のロマンだ」とか心の中で呟いていたよ。
「うわぁ、海綺麗! 沖縄の海みたいだ!」
「アル、お前は初めて見るのによくこれが【海】だと分かったな」
「オキナワってなぁに?」
「えっ?! ほ、本で見たんだよ」
危ない危ない。
海が綺麗過ぎて感動したスバルが、ウッカリ元の世界の地名を口走っちゃったよ。
赤ん坊の頃から僕を育ててきたバランさんとミィファさんが、怪訝な顔して聞いてきた。
バランさんもリピエノさんから依頼を受けて、冒険者パーティのメンバーと共に依頼を受けて同行している。
……なんとかごまかせたかな?
「アルってば、ウッカリさんね」
「あはは……」
後でセラフィナにコッソリ耳打ちされて、スバルは苦笑した。
異世界転生者ってことは、セラフィナとの2人だけの秘密だ。
宝石みたいに煌めくマリンブルーの海を、白い帆を広げた帆船が進む。
出発してしばらく経つと、はしゃいでいた孤児院の子供たちが静かになった。
「うぅ……気持ち悪い……」
「み、みんな……とりあえず横になりましょう……」
って言って、みんな青ざめているよ。
ミィファさんまで体調不良だ。
スバルの知識によれば、【船酔い】というものらしい。
「アルは初めてなのに平気そうだな」
「うん、なんともないよ」
船旅になれたバランさんは平気そう。
スバルもへっちゃらだ。
僕の身体は女神様の加護に【状態異常抵抗】があるから、船酔いにはならないらしい。
「アル、状態異常解除の光魔法を教えてあげる」
子供たちの中でもセラフィナだけは平気そうだ。
彼女はスバルに新しい光魔法を教えてくれた。
船室にあるメモ用紙とペンを使い、何も見ずにサラサラと魔法の術式を書き上げられるなんて、セラフィナは凄いなぁ。
その文字をスバルが片手の指先でなぞると、脳内に魔法の術式が刻まれた。
「練習代わりに、アトラスたちに使ってみて」
「OK」
セラフィナとスバルが隣の大部屋へ向かう。
たくさんのベッドが並ぶ部屋の窓は開け放たれていて、涼しい風が流れ込んでいた。
ベッドの上にはミィファさん、アトラス、エレク、リック、ミラ、クロエが横たわっている。
出港したときはみんな大はしゃぎで、騒がしいくらいだったのに。
今はシーンと静まり返っていて、みんな青白い顔で目を閉じて眠っている。
スバルは部屋の真ん中に立ち、祈るように両手を組んだ。
セラフィナは戸口に佇んで見守っている。
「
スバルが小さな声で呟くと、魔法が起動し始める。
組んだ両手から、淡い緑の光が湧き出てくる。
光は急速に範囲を広げて、ベッドで眠る5人を覆う。
眠り続ける6人の顔色が良くなり、苦しそうだった表情が安らいで、気持ちよさそうな寝顔に変わった。
「始めてとは思えないくらいアッサリ使いこなすわね。それもゲームの知識?」
「うん。状態異常の解除系はRPGでよく使う魔法だよ」
教えた魔法が予想以上に大成功で、セラフィナは少し驚いている。
魔法はイメージが掴めないと上手く発動しないのだけど。
スバルは前世で遊んだゲームを参考に状態異常解除魔法を使った。