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第44話:巨大タコ狩り

 巨大な魔物が街の近くに出たら、危機的な状況かと思うんだけど。

 フルレの街に隣接する海岸に出たプゥルプという巨大魔物は、街の人たちに喜ばれてる感じがする。


「的はデカイぞ、遠慮なく矢でも魔法でも撃ってくれ!」

「外殻を破壊すれば、俺たちの勝ちだ!」

「逃がすなよ! どんどんいけ~!」


 街にいた冒険者全員で総攻撃してる。

 その表情は、防衛に必死というよりも、獲物を逃がすまいとする漁師みたいだ。


 巨大な壺からウネウネと出ている吸盤つきの太い脚(腕?)は8本。

 冒険者たちはそれには近付かずに、壺だけを狙って攻撃を続けている。


「弓はあんまり得意じゃないんだけどな。あれだけデカイ的なら当たるだろ」


 そう言いながら、バランさんが現場にいる武器商人から受け取っているのは、シンプルなデザインの弓矢。

 現場には冒険者の他に、武器商人たちも集合していた。

 大人数で、前衛無しの一斉攻撃だ。

 止まることなく続く矢と魔法の豪雨。

 プゥルプは上陸できずに、脚をうねらせるだけだった。


「魔法はどの属性でもいいぞ!」

「魔力ポーション欲しい奴、ここにあるぞ!」

「魔法が使えないなら弓矢を渡すから来てくれ!」

「消耗品は遠慮なく使ってくれ! 政府が買ってくれるからな!」


 なんだかもうお祭りみたいな感じだよ。

 遠距離攻撃を続ける人々の中には、街の警備兵まで混じっていた。


「このロープより手前から攻撃して下さ~い!」

「ロープから向こうに出ないで下さ~い!」


 声を張り上げて呼びかけている女の人たちは、ギルド職員さんかな?

 ウッカリ前に出て攻撃に巻き込まれる人がいないように、注意しているみたいだ。


(まるでイベント会場のようだぜ)


 スバルは心の中で呟いた。

 彼が生きた世界では、こんな感じで人が大勢集まるイベントがよくあるそうだよ。


「今年のプゥルプは硬いなぁ」

「まだ外殻にヒビすら入ってないぞ」


 近くで矢を射掛けている冒険者たちが、そんなことを話している。

 プゥルプ狩りって、毎年恒例のイベントみたいなもの?


「アル、水属性魔法を使ってみな。今のお前なら威力が上がってる筈だぞ」

「うん」


 一斉攻撃を巨大タコ壺で防ぐプゥルプを眺めるスバルに、バランさんが小声で耳打ちしてくる。

 水属性魔法の威力が上がってるって、水の祝福とか海神の加護が影響するのかな?


(あのタコ壺を割ればいいんだよな? なら、散水ホースのシャワーヘッドを【ジェット】にしたみたいのがいいかな)


 心の中で、魔法のイメージが浮かび上がる。

 記憶を共有する僕にも、それが何か分かる。

 スバルは、海神ラメル様の鱗が溶け込んでいる右手を、プゥルプに向けた。

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