日本のホームセンターなどに売っている散水ホースのシャワーヘッドは、シャワーや霧の他にジェットという水を細く力強く吹き出す機能がある。
蛇口からホースに流れ込む水量が多ければ、ジェットで吹き出す水の勢いが強まるので、俺はそれをイメージしながら水魔法を起動した。
俺は日本にいた頃、とあるホテルの洗い場アルバイトをしたことがある。
そこで使っていたのが【ウォーターガン】と呼ばれる物。
ウォーターガンは散水シャワーヘッドのジェットモードを強化したみたいなやつ。
ジェットよりも細く強く吹き出す水は、中身を焦がしちゃった鍋からコゲを砕いて剥がすことができた。
「アル、魔法使うの?」
「いけいけ~」
「全力でブチかませ!」
ミニョンさん、シェリーさん、ミュスクルさんが、タコ壺に矢を放つ合間にこちらを見て言う。
ダンジョンに何度も同行してくれた3人は、俺の魔法の威力が普通の学生魔法使いより強いことを知っていた。
だから、もしかしたらヒビを入れられるかも? って期待したのかな。
俺は頷くことでそれに応えた。
水属性に練り上げた魔力が、体内に満ちてくる。
俺は右手でピストルの形を作った。
タコ壺に狙いを定める人差し指の先が、薄青く発光し始める。
魔力が指先に集まったとき、俺はピストルを撃つように水魔法を発射した。
水属性魔法(特殊):
弾丸の如く撃ち出されるのは、強烈な水圧を込めた水属性攻撃。
ヒントは、前世で遊んだゲームに出てきた防具破壊魔法だ。
本家の魔法は服まで脱がせちゃうイヤンな効果があるが、タコ相手にそれは無いな。
「おぉ?! なんだ今の攻撃?!」
「魔法か?!」
音速で飛んだそれを目視できるのは、ごく一部の動体視力に優れた冒険者たち。
水の弾丸はタコ壺のド真ん中を撃ち抜き、開いた穴から放射状にヒビが全体に広がった。
「ヒビが入ったぞ!」
「みんな! ラストアタックだ!」
人々の間から鼓舞する声が聞こえ、その場にいた全員が一斉に魔法または矢を放つ。
既にヒビに覆われたタコ壺は、防御力が無いに等しくなっていた。
プゥルプの外殻が、落とした陶器か硝子のように粉々に砕け散る。
無防備になった巨大タコは、更に飛んできた魔法と矢の雨に打たれて完全に沈黙した。
「「「やったぁぁぁ!」」」
大きな歓声と共に、人々が飛び上がって喜びを表わす。
例えて言うなら、スポーツで団体優勝したみたいなテンションだ。
あんなデカイ魔物を倒したのに、災害を回避したみたいな雰囲気ではない。
「よぉ~し! タコパの準備だぁ!」
「みんなで解体して、広場へ運べ!」
街の人たちが張り切る声が聞こえる。
何人かが倒れた巨大タコに駆け寄った。
地元民はこの魔物の解体に慣れているらしく、手分けして手際よく解体していく。
切り分けられたタコの身が、次々に運び出されていった。
「お待ちかねのタコパだな。ミィファたちと合流して広場へ行くぞ」
バランさんが言う。
……え? タコパ?
タコパって、前世で友人たちとよくやったアレか?
俺は軽く困惑しつつも、バランさんたちに続いて高台の公園へ向かった。