目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第45話:撃ち抜け!

 日本のホームセンターなどに売っている散水ホースのシャワーヘッドは、シャワーや霧の他にジェットという水を細く力強く吹き出す機能がある。

 蛇口からホースに流れ込む水量が多ければ、ジェットで吹き出す水の勢いが強まるので、俺はそれをイメージしながら水魔法を起動した。


 俺は日本にいた頃、とあるホテルの洗い場アルバイトをしたことがある。

 そこで使っていたのが【ウォーターガン】と呼ばれる物。

 ウォーターガンは散水シャワーヘッドのジェットモードを強化したみたいなやつ。

 ジェットよりも細く強く吹き出す水は、中身を焦がしちゃった鍋からコゲを砕いて剥がすことができた。


「アル、魔法使うの?」

「いけいけ~」

「全力でブチかませ!」


 ミニョンさん、シェリーさん、ミュスクルさんが、タコ壺に矢を放つ合間にこちらを見て言う。

 ダンジョンに何度も同行してくれた3人は、俺の魔法の威力が普通の学生魔法使いより強いことを知っていた。

 だから、もしかしたらヒビを入れられるかも? って期待したのかな。

 俺は頷くことでそれに応えた。


 水属性に練り上げた魔力が、体内に満ちてくる。

 俺は右手でピストルの形を作った。

 タコ壺に狙いを定める人差し指の先が、薄青く発光し始める。

 魔力が指先に集まったとき、俺はピストルを撃つように水魔法を発射した。


 水属性魔法(特殊):水滴石穿すいてきせきせん


 弾丸の如く撃ち出されるのは、強烈な水圧を込めた水属性攻撃。

 ヒントは、前世で遊んだゲームに出てきた防具破壊魔法だ。

 本家の魔法は服まで脱がせちゃうイヤンな効果があるが、タコ相手にそれは無いな。


「おぉ?! なんだ今の攻撃?!」

「魔法か?!」


 音速で飛んだそれを目視できるのは、ごく一部の動体視力に優れた冒険者たち。

 水の弾丸はタコ壺のド真ん中を撃ち抜き、開いた穴から放射状にヒビが全体に広がった。


「ヒビが入ったぞ!」

「みんな! ラストアタックだ!」


 人々の間から鼓舞する声が聞こえ、その場にいた全員が一斉に魔法または矢を放つ。

 既にヒビに覆われたタコ壺は、防御力が無いに等しくなっていた。

 プゥルプの外殻が、落とした陶器か硝子のように粉々に砕け散る。

 無防備になった巨大タコは、更に飛んできた魔法と矢の雨に打たれて完全に沈黙した。


「「「やったぁぁぁ!」」」


 大きな歓声と共に、人々が飛び上がって喜びを表わす。

 例えて言うなら、スポーツで団体優勝したみたいなテンションだ。

 あんなデカイ魔物を倒したのに、災害を回避したみたいな雰囲気ではない。


「よぉ~し! タコパの準備だぁ!」

「みんなで解体して、広場へ運べ!」


 街の人たちが張り切る声が聞こえる。

 何人かが倒れた巨大タコに駆け寄った。

 地元民はこの魔物の解体に慣れているらしく、手分けして手際よく解体していく。

 切り分けられたタコの身が、次々に運び出されていった。


「お待ちかねのタコパだな。ミィファたちと合流して広場へ行くぞ」


 バランさんが言う。


 ……え? タコパ?

 タコパって、前世で友人たちとよくやったアレか?


 俺は軽く困惑しつつも、バランさんたちに続いて高台の公園へ向かった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?