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第47話:海賊船出現

 花の都フルレの滞在期間が終わり、俺たちは再び船に乗り、次の港を目指して海に出た。

 また船酔いしそうなアトラスたちには、フルレを出る前にミィファさんが【酔い止め飴】を買って舐めさせている。


「この飴、おいしい~」

「もっと食べたい」

「お薬だから、朝夕1コずつよ」


 酔い止め飴は美味しいらしい。

 俺は船酔いしないから口にすることはないけれど、ほのかに漂う香りから、柑橘系だなと分かった。


 飴のおかげで誰も船酔いせず順調な航海を続けていたら、前方からなんか怪しい船が近付いてくる。

 黒塗りの帆船、帆の上部にはドクロの旗。

 いかにもな感じのその船を見て、リピエノさんが溜息をついた。


「やはり今年も出るんだねぇ、海賊船」

「モントル号を護れ!」


 やれやれという感じでリピエノさんが呟く。

 どっからどう見てもそっち系の船だと思ったら、やはりそうらしい。

 海賊対策に雇われた防御魔法使いたちが、船の四方に散って防壁を展開した。


「みんな、危ないからお部屋へ行きましょう」


 ミィファさんが甲板にいたアトラスたちを連れて、船室へ向かう。

 不安そうな顔をするアトラスたちに、セラフィナもついていった。


「プゥルプ狩りで貰ったコレ、使っておくか」

「大きさ的には変わらないから当たるだろ」

「火属性エンチャントをかけておくよ」


 バランさんがフルレの武器屋から貰った弓矢を構える。

 ヴァルトさんは愛用のクロスボウを構えた。

 攻撃魔法が得意なマルカさんは、属性ダメージの付与ができるらしい。


「ミニョン、威力UPをかけて」

「俺にも頼む」

「OK」


 シェリーさんとミュスクルさんも加勢するようだ。

 慌てた様子は無いから、多分去年も海賊に遭遇したんだろう。


「アルはよく見ておけよ。これが海賊から商船を護る依頼だ」

「うん」


 邪魔にならないように帆柱の真下に立つ俺に、ケラエノさんが歩み寄ってきて言う。

 冒険者学園の職員はギルド職員だから、購買職員のケラエノさんは冒険者の依頼内容を熟知していた。



 晴れ渡る空の下、紺碧の海の上、白い帆船と黒い帆船が向かい合う。

 黒い船の舳先には大砲みたいな物があり、その筒先はモントル号に向いている。


「撃て! 奴等を近付かせるな!」


 射程距離に入ると、船員たちが砲撃を開始する。

 しかし海賊船にも防御魔法使いがいるらしく、砲弾は敵船に到達する前に空中で防壁に激突し塵と化した。


 一方、海賊船からの砲撃もモントル号には当たらない。

 4人の防御魔法使いたちが、魔法による防壁で砲弾を防いでいる。


「攻防は互角のようだね。この場合は砲撃を続けながら迂回して進むんだ」

「海賊を討伐しないの?」

「それはまた別の依頼だからね。今は海賊を振り切って進むのが最優先事項さ」


 船と船の戦いを見学しながら、ケラエノさんが俺に説明してくれた。

 武装しているとはいえ、モントル号は商船であり、戦艦ではない。

 海賊船とガチバトルするよりも、接近されないように進むことを優先するらしい。


「海賊船は1隻見たら10隻いると言われている。戦闘を長引かせるよりも逃げた方がいい」


 海賊船、なんか日本でGと呼ばれる生き物みたいな言われようだ。

 言われて見ると、あの船体の色がそれっぽいような?


「そうそう、それに今なら確実に振り切れるからね」


 リピエノさんがこちらへ歩いてきて、意味深にウインクしてみせた。

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