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第48話:海賊船より3倍速い

 リピエノさんも、ケラエノさんも、バランさんも確信していた。

 舵を握る船長も操船の感覚から気付いている。


 今なら必ず逃げ切れる、ってね。


 防御魔法使いたちにミニョンさんも加勢して、モントル号は敵の砲撃や魔法を防ぎつつ進む。

 こちらの砲撃や攻撃魔法は、海賊船の足止め目的だ。


「逃がすか!」

「俺たちの船を振り切れると思うなよ!」


 黒い船を迂回して進むと、そんな声が聞こえてきた。

 海賊船もUターンして並走しながら攻撃を続ける。

 普通の商船なら、彼等は追いつけたのかもしれない。

 だけど今のモントル号には、海神ラメル様の加護がついていた。


 追い風が、白い帆に吹く。

 海流が、船体を後押しする。

 モントル号だけが、一気に加速した。


「何っ?!」


 黒い眼帯を着けたモジャモジャ髭のオジサンが、目を剥いて驚く。

 甲板の中央で怒鳴るように命令していたそのオジサンが、海賊たちの首領かもしれない。

 僕は以前読んだ絵本に、あんな感じの海賊船長が出てきたのを思い出した。


「引き離される……だと?!」

「なんだあの船は?!」

「速度が尋常じゃねぇぞ!」

「おい! どうした?! 船が海流に押し返されてるぞ!」


 海賊たちが騒ぐ声が、だんだん遠くなる。

 並走どころか、黒い船は後方へ押し流されていく。


(お~速い速い、これって3倍くらい速いんじゃないか?)


 帆柱の下で見学しながら、スバルはそんなことを思っている。

 スバルの知識によれば「3倍速い」は物凄く速いことを意味するらしい。

 その語源は大昔のアニメで、一部の人々の間で語り継がれているそうだよ。


 モントル号は追い風を受け、海流に押され、青い海を滑るように進む。

 一方の海賊船は、追いかけることができずに後退していく。

 ドクロの旗も黒い船体もあっというまに小さくなり、やがて水平線の彼方に消えた。


「やったぁ!」

「逃げ切ったぞ!」


 甲板にいた魔法使いたちや、砲撃を続けていた船員たちが喜びの声を上げる。

 バランさん、ヴァルトさん、マルカさんは笑顔で頷き合う。

 ミュスクルさん、、シェリーさん、ミニョンさんも笑顔でハイタッチした。


「良かった良かった、船体が傷つくことなく海賊船を振り切れたね」


 頭上の帆や甲板を見回して、リピエノさんが満足そうに言う。

 海賊船からの攻撃は全て防壁で防げたみたいで、どこも壊れていなかった。


「これはきっと海神様のおかげに違いない。みんな、感謝の祈りを捧げよう」


 リピエノさんはそう言うと、両手を組んで海に向かい、感謝の祈りを捧げる。

 ケラエノさんも同様に祈りを捧げ、それに倣って甲板にいる全員が海神様に祈りを捧げた。


(ラメル様、助けてくれてありがとう!)

『ふふっ、いつでも助けてあげるよ』


 スバルが感謝の祈りを捧げたら、ラメル様がちゃっかりお返事していたよ。

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