リピエノさんも、ケラエノさんも、バランさんも確信していた。
舵を握る船長も操船の感覚から気付いている。
今なら必ず逃げ切れる、ってね。
防御魔法使いたちにミニョンさんも加勢して、モントル号は敵の砲撃や魔法を防ぎつつ進む。
こちらの砲撃や攻撃魔法は、海賊船の足止め目的だ。
「逃がすか!」
「俺たちの船を振り切れると思うなよ!」
黒い船を迂回して進むと、そんな声が聞こえてきた。
海賊船もUターンして並走しながら攻撃を続ける。
普通の商船なら、彼等は追いつけたのかもしれない。
だけど今のモントル号には、海神ラメル様の加護がついていた。
追い風が、白い帆に吹く。
海流が、船体を後押しする。
モントル号だけが、一気に加速した。
「何っ?!」
黒い眼帯を着けたモジャモジャ髭のオジサンが、目を剥いて驚く。
甲板の中央で怒鳴るように命令していたそのオジサンが、海賊たちの首領かもしれない。
僕は以前読んだ絵本に、あんな感じの海賊船長が出てきたのを思い出した。
「引き離される……だと?!」
「なんだあの船は?!」
「速度が尋常じゃねぇぞ!」
「おい! どうした?! 船が海流に押し返されてるぞ!」
海賊たちが騒ぐ声が、だんだん遠くなる。
並走どころか、黒い船は後方へ押し流されていく。
(お~速い速い、これって3倍くらい速いんじゃないか?)
帆柱の下で見学しながら、スバルはそんなことを思っている。
スバルの知識によれば「3倍速い」は物凄く速いことを意味するらしい。
その語源は大昔のアニメで、一部の人々の間で語り継がれているそうだよ。
モントル号は追い風を受け、海流に押され、青い海を滑るように進む。
一方の海賊船は、追いかけることができずに後退していく。
ドクロの旗も黒い船体もあっというまに小さくなり、やがて水平線の彼方に消えた。
「やったぁ!」
「逃げ切ったぞ!」
甲板にいた魔法使いたちや、砲撃を続けていた船員たちが喜びの声を上げる。
バランさん、ヴァルトさん、マルカさんは笑顔で頷き合う。
ミュスクルさん、、シェリーさん、ミニョンさんも笑顔でハイタッチした。
「良かった良かった、船体が傷つくことなく海賊船を振り切れたね」
頭上の帆や甲板を見回して、リピエノさんが満足そうに言う。
海賊船からの攻撃は全て防壁で防げたみたいで、どこも壊れていなかった。
「これはきっと海神様のおかげに違いない。みんな、感謝の祈りを捧げよう」
リピエノさんはそう言うと、両手を組んで海に向かい、感謝の祈りを捧げる。
ケラエノさんも同様に祈りを捧げ、それに倣って甲板にいる全員が海神様に祈りを捧げた。
(ラメル様、助けてくれてありがとう!)
『ふふっ、いつでも助けてあげるよ』
スバルが感謝の祈りを捧げたら、ラメル様がちゃっかりお返事していたよ。