ケラエノさんが「1隻見たら10隻いる」とか言ってたけど。
ほんとそれ。
さっき1隻を振り切って逃げた後、更に数隻の海賊船に遭遇したよ。
「くそっ! 追いつけねぇ!」
「待ちやがれぇぇぇ~っ!」
怒鳴る海賊たちを華麗にスルーして、帆船とは思えない爆速で逃げるモントル号。
青い海に白波を立てて進んでいると、前方に厄介な状況が待っていた。
「やれやれ困ったな。海賊の餌食になった船がいるようだね」
リピエノさんが溜息混じりに言う。
その視線の先には、海賊船にロープで固定され、板が橋のようにかけられた船がいた。
無駄に飾り立てられた、派手なデザインの帆船。
船体の金属部分には金の装飾が施され、白い帆には大きな赤い薔薇が描かれている。
「やめて! 来ないで!」
「金を払わない男なんかお断りよ!」
渡し板を通って派手な船に乗り込もうとする海賊たちに向かって、叫んでいるのはドレス姿の女たち。
甲板の上には、大量の血を流して倒れている男たちがいた。
「あれを無視して通り過ぎるわけには……いかないな」
ヴァルトさんがクロスボウを構えてすぐ矢を放った。
まるでガンマンの早撃ちみたいでカッコイイ。
勢いよく飛ぶ矢は渡し板を通ろうとした海賊の1人を貫き、海へと落下させた。
「あの赤い薔薇、ユノの船か? あんな派手な船に娼婦を乗せてたら、襲ってくれって言ってるようなもんだろ」
半ば呆れたような口調で言いながら、マルカさんが風魔法で渡し板を全て吹き飛ばす。
ヴァルトさんは派手な船に飛び移ろうとする海賊たちを正確に射貫いて海へ転落させた。
「アルをイジメた奴の関係者なんか助けたくないけど、しょうがないわね」
ちょっと不機嫌そうに言うシェリーさんが矢を放つ。
その横でミニョンさんが杖を手にしているから、強化系の魔法をかけたんだろう。
威力を上げられた矢は、海賊船とユノの船を縛るロープを断ち切った。
「アル、プゥルプ狩りで使ったあの魔法を撃て。狙いは海賊船の帆柱だ」
「はい!」
バランさんに言われて、俺は水魔法を起動する。
体内で練り上げた魔力が、指先に集まり薄青く発光し始める。
俺はピストルを撃つように魔法を放った。
水属性魔法(特殊):
『敵船を破壊するんだね。手伝ってあげよう』
放った直後、ラメル様の【声】が聞こえる。
え? って思った直後、俺が放った魔法は形を変え、水の竜と化した。
水属性魔法(特殊・上位変換):
「え?!」
「な、なんだ?!」
敵も味方も、その場にいた人々がみんなギョッとする。
放った俺本人もビックリだ。
プゥルプ狩りではほとんど誰も目視できなかったけど。
今回は飛ばしたものがデカ過ぎて、ほとんどの人に見られてしまった。
「ひぃぃぃっ!」
「うわぁぁぁ!」
海賊船の方から、慌てふためく悲鳴が聞こえる。
マリンブルーの竜は海賊船に飛びかかり、強烈な爪の一撃を食らわした。
帆柱を折るだけの予定が、海賊船そのものが真っ二つに折れたのち粉々に砕ける。
海賊たちが木っ端と共に海へと落下した。
「あ~……アル、帆柱だけで……よかったんだぞ?」
「そう……だったよね。あはは……」
バランさんが半分固まりながら言う。
俺も想定外の状況に苦笑するしかなかった。