僕は学園に入る前、街で1人の男の子と出会った。
男の子は誰かに殴られたみたいにあちこち痣だらけで、家の裏口に座って泣いていた。
「大丈夫? 何かあったの?」
僕がその子に声をかけたのは、ミィファさんの教えがあったから。
泣いてる子がいたら優しくしてあげてって、いつも言われている。
「お父さんに、ぶたれたの」
僕と同じくらいの歳に見える男の子は言った。
言いながら、ポロポロと涙を流して泣いていた。
「こんなに痣になるまでぶつなんて酷いね、逃げたかったら、マイア孤児院に来る?」
僕がそう言ったのは、バランさんの教えがあったから。
もしも親に殴られて傷だらけの子がいたら、孤児院へ連れて来たらいいよって言われている。
でも、その子は来なかった。
「ううん、いい。僕の家はここだから」
「そっか。もしも逃げたくなったら、いつでも来ていいからね」
痣だらけの子は、親に殴られても、その家にいると言う。
僕は、何故その子が誘いを断るのか分からなかった。
「親がいる子は、それがどんなに酷い親でも慕って離れようとしないんだ」
バランさんに話したら、溜息をついてそう言った。
僕には、どうして酷い目にあっても親から離れないのか分からない。
それからしばらくして、痣だらけの男の子はその家からいなくなった。
家が貧しくて、売られてしまったんだと街の人が言っていた。
殴られても家から離れなかったのに。
親の都合で、追い出されてしまうなんて。
売られてしまった子を助けてあげられなかったことが、僕には悔しくて悲しかった。
◇◆◇◆◇
「ほら、いい子だろう?」
エルシスは自分で殺した子の力を操って、そんなことを言っている。
左腕に抱かれた子は心臓を抉り出されていて、ピクリとも動かない。
スバルはエルシスをブッ飛ばしたいらしい。
でも、僕の気持ちはそれとは違う。
僕は、あの子を助けたい!
『OK、なら交代するぞ』
強く思ったとき、スバルの言葉が心に流れ込み、僕は表層に出た。
僕たちが入れ替わったことは、誰も気付いていない。
僕は可哀想な赤ん坊に片手を向けた。
「クククッ、やるのかい? どうなっても知らないよ?」
エルシスが笑いながら言う。
攻撃なら反射されるだろうからね。
でも、僕が使うのは攻撃魔法じゃない。
『ラメル様、僕に力を貸して下さい』
『承知した』
僕の片手から、金色の光の粒子と、マリンブルーの水の玉が、混ざり合って湧き出てくる。
既に息絶えている赤ん坊に向けて、僕は魔法を放つ。
光×水属性(混合・上位変換):
僕の片手から放たれた光と海の力が、赤ん坊を包んで癒していく。
無残な姿になっていた赤ん坊の傷が癒えると共に、エルシスの右手にあった真紅の宝石が消えた。
「……なん……だと……?」
呆然とするエルシス。
その隙に、僕は跳ぶように駆け寄り、その腕から赤ん坊を奪い取って飛び下がった。
奪い取った赤ん坊は、蘇生回復が完了してスヤスヤ眠っている。
「セラ、この子を抱いてて」
僕はセラフィナ(ソフィエ)に赤ん坊を預けて、スバルと交代した。