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第72話:孤児の視点

 僕は学園に入る前、街で1人の男の子と出会った。

 男の子は誰かに殴られたみたいにあちこち痣だらけで、家の裏口に座って泣いていた。


「大丈夫? 何かあったの?」


 僕がその子に声をかけたのは、ミィファさんの教えがあったから。

 泣いてる子がいたら優しくしてあげてって、いつも言われている。


「お父さんに、ぶたれたの」


 僕と同じくらいの歳に見える男の子は言った。

 言いながら、ポロポロと涙を流して泣いていた。


「こんなに痣になるまでぶつなんて酷いね、逃げたかったら、マイア孤児院に来る?」


 僕がそう言ったのは、バランさんの教えがあったから。

 もしも親に殴られて傷だらけの子がいたら、孤児院へ連れて来たらいいよって言われている。

 でも、その子は来なかった。


「ううん、いい。僕の家はここだから」

「そっか。もしも逃げたくなったら、いつでも来ていいからね」


 痣だらけの子は、親に殴られても、その家にいると言う。

 僕は、何故その子が誘いを断るのか分からなかった。


「親がいる子は、それがどんなに酷い親でも慕って離れようとしないんだ」


 バランさんに話したら、溜息をついてそう言った。

 僕には、どうして酷い目にあっても親から離れないのか分からない。


 それからしばらくして、痣だらけの男の子はその家からいなくなった。

 家が貧しくて、売られてしまったんだと街の人が言っていた。

 殴られても家から離れなかったのに。

 親の都合で、追い出されてしまうなんて。

 売られてしまった子を助けてあげられなかったことが、僕には悔しくて悲しかった。


 ◇◆◇◆◇


「ほら、いい子だろう?」


 エルシスは自分で殺した子の力を操って、そんなことを言っている。

 左腕に抱かれた子は心臓を抉り出されていて、ピクリとも動かない。


 スバルはエルシスをブッ飛ばしたいらしい。

 でも、僕の気持ちはそれとは違う。


 僕は、あの子を助けたい!


『OK、なら交代するぞ』


 強く思ったとき、スバルの言葉が心に流れ込み、僕は表層に出た。

 僕たちが入れ替わったことは、誰も気付いていない。

 僕は可哀想な赤ん坊に片手を向けた。


「クククッ、やるのかい? どうなっても知らないよ?」


 エルシスが笑いながら言う。


 攻撃なら反射されるだろうからね。

 でも、僕が使うのは攻撃魔法じゃない。


『ラメル様、僕に力を貸して下さい』

『承知した』


 僕の片手から、金色の光の粒子と、マリンブルーの水の玉が、混ざり合って湧き出てくる。

 既に息絶えている赤ん坊に向けて、僕は魔法を放つ。


 光×水属性(混合・上位変換):蘇生回復リエニメシオン


 僕の片手から放たれた光と海の力が、赤ん坊を包んで癒していく。

 無残な姿になっていた赤ん坊の傷が癒えると共に、エルシスの右手にあった真紅の宝石が消えた。


「……なん……だと……?」


 呆然とするエルシス。

 その隙に、僕は跳ぶように駆け寄り、その腕から赤ん坊を奪い取って飛び下がった。

 奪い取った赤ん坊は、蘇生回復が完了してスヤスヤ眠っている。


「セラ、この子を抱いてて」


 僕はセラフィナ(ソフィエ)に赤ん坊を預けて、スバルと交代した。

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