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第73話:ブッ飛ばす

 アルキオネの人格は俺と違って、誰かを憎んだり怒ったりすることがほとんどない。

 彼は哀れな赤ん坊を救うことだけを考えていた。


 でも、俺は違う。

 我が子を殺して利用するイカレ野郎をブッ飛ばす!


「無敵モードは終わったみたいだな、オッサン」

「な……何をした……?」


 アルキオネと交代して表層に出た俺は、悪い顔して言ってやった。

 さっきまで悠然と構えていたイカレ野郎(エルシスだったっけ?)は、状況変化についていけず驚愕している。


「まだ何もしてねぇよ。俺は、な」


 嘘はついていない。

 やったのはアルキオネだから。

 俺がやるのは、これからだ。


「だけど子供を殺すイカレ野郎を、放置する気は無いぞ」

「な、なにをする気だ?!」


 俺が睨みつけてやったら、エルシスは狼狽え始める。

 6歳児相手にビビッてんじゃねぇよ。

 まあ、今表に出てんの成人男子だけど。


「歯ァ食いしばれ!」

「?!」


 俺は勢いよく床を蹴って、エルシスとの距離を一気に詰める。

 魔法は使わない。

 使うのは、このゲンコツだ!


『ふむ、物理か。ならば光はその拳に込めよう』


 ルミナス様が、俺の右手になにか仕掛けたようだ。

 俺の拳が金色に光り出したぞ。

 なんかこういう必殺技のアニメキャラがいたような?

 アニメ好きなら口上を言い出すところだが、俺はそこまで中二病ではない。

 俺は無言で跳躍すると、エルシスの頬に全力パンチを食らわした。


 筋力「優」にルミナス様の加護がブーストかけてるんだろう、俺の倍はある体格の男がフッ飛び、2~3回大きくバウンドして床に倒れた。

 直後、黄金色の光がエルシスの顔から全身を覆いつくす。


「「ギャアァァァッ!」」


 聞こえた悲鳴は、1つじゃなかった。

 白目を剥いて仰向けに倒れたエルシスの身体から、黒い霧のようなものが抜け出てくる。

 もう1つの悲鳴はそいつか?

 エルシスを覆う光が強まり、黒い霧は光に飲まれるように消えていった。


「今の黒い霧、闇の神の眷属だわ」


 赤ん坊を抱きながら、セラフィナ(ソフィエ)が言う。

 エルシスのイカレっぷりは、憑依されてたせいなのか?


「とりあえず、法王様やミセジさんたちを助けよう」

「範囲回復なら私も手伝うわ」

「じゃあ、俺が蘇生させた後に続いて範囲回復を頼むよ」

「任せて」


 謁見の間から通路まで、かなりの人数が倒れている。

 俺とセラフィナは協力して人命救助にかかった。


『ラメル様、範囲蘇生に力を貸して下さい』

『承知した』

『私も力を貸そう』


 いつものようにラメル様に願うと、ルミナス様の力も加わる。

 起動したその魔法は、複数の死者を同時に蘇生させる神レベルの効果をもっていた。


 光×水属性(混合・上位変換・拡大):広域蘇生回復ラルジュリエニメシオン


「1人の蘇生でも奇跡だっていうのに、この人数を同時蘇生って何なの」


 苦笑しながら、セラフィナも範囲回復魔法を起動する。

 彼女のそれは、聖女が使う古代神聖魔法だ。


 古代光魔法:治癒サナティオ


 俺も習得した魔法だけど、聖女であるセラフィナやソフィエが本家だ。

 俺の魔法で蘇生した法王様もミセジさんも兵士たちも、セラフィナの魔法で完全に回復していった。

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