アルキオネの人格は俺と違って、誰かを憎んだり怒ったりすることがほとんどない。
彼は哀れな赤ん坊を救うことだけを考えていた。
でも、俺は違う。
我が子を殺して利用するイカレ野郎をブッ飛ばす!
「無敵モードは終わったみたいだな、オッサン」
「な……何をした……?」
アルキオネと交代して表層に出た俺は、悪い顔して言ってやった。
さっきまで悠然と構えていたイカレ野郎(エルシスだったっけ?)は、状況変化についていけず驚愕している。
「まだ何もしてねぇよ。俺は、な」
嘘はついていない。
やったのはアルキオネだから。
俺がやるのは、これからだ。
「だけど子供を殺すイカレ野郎を、放置する気は無いぞ」
「な、なにをする気だ?!」
俺が睨みつけてやったら、エルシスは狼狽え始める。
6歳児相手にビビッてんじゃねぇよ。
まあ、今表に出てんの成人男子だけど。
「歯ァ食いしばれ!」
「?!」
俺は勢いよく床を蹴って、エルシスとの距離を一気に詰める。
魔法は使わない。
使うのは、このゲンコツだ!
『ふむ、物理か。ならば光はその拳に込めよう』
ルミナス様が、俺の右手になにか仕掛けたようだ。
俺の拳が金色に光り出したぞ。
なんかこういう必殺技のアニメキャラがいたような?
アニメ好きなら口上を言い出すところだが、俺はそこまで中二病ではない。
俺は無言で跳躍すると、エルシスの頬に全力パンチを食らわした。
筋力「優」にルミナス様の加護がブーストかけてるんだろう、俺の倍はある体格の男がフッ飛び、2~3回大きくバウンドして床に倒れた。
直後、黄金色の光がエルシスの顔から全身を覆いつくす。
「「ギャアァァァッ!」」
聞こえた悲鳴は、1つじゃなかった。
白目を剥いて仰向けに倒れたエルシスの身体から、黒い霧のようなものが抜け出てくる。
もう1つの悲鳴はそいつか?
エルシスを覆う光が強まり、黒い霧は光に飲まれるように消えていった。
「今の黒い霧、闇の神の眷属だわ」
赤ん坊を抱きながら、セラフィナ(ソフィエ)が言う。
エルシスのイカレっぷりは、憑依されてたせいなのか?
「とりあえず、法王様やミセジさんたちを助けよう」
「範囲回復なら私も手伝うわ」
「じゃあ、俺が蘇生させた後に続いて範囲回復を頼むよ」
「任せて」
謁見の間から通路まで、かなりの人数が倒れている。
俺とセラフィナは協力して人命救助にかかった。
『ラメル様、範囲蘇生に力を貸して下さい』
『承知した』
『私も力を貸そう』
いつものようにラメル様に願うと、ルミナス様の力も加わる。
起動したその魔法は、複数の死者を同時に蘇生させる神レベルの効果をもっていた。
光×水属性(混合・上位変換・拡大):
「1人の蘇生でも奇跡だっていうのに、この人数を同時蘇生って何なの」
苦笑しながら、セラフィナも範囲回復魔法を起動する。
彼女のそれは、聖女が使う古代神聖魔法だ。
古代光魔法:
俺も習得した魔法だけど、聖女であるセラフィナやソフィエが本家だ。
俺の魔法で蘇生した法王様もミセジさんも兵士たちも、セラフィナの魔法で完全に回復していった。