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第74話:メシエの王子

 蘇生と回復の魔法は範囲を広げ、城全体を覆った。

 城内は酷い状態だったけど、犠牲者は全員傷ひとつ無く回復して、互いに復活を喜び合っている。


「陛下にお願いがございます。エルシス様との離縁を認めて頂けませんか? 私は娘と共に故郷へ帰りたいと思います」

「それがよかろう。故郷で娘を育てながら静かに暮らすがよい」


 エルシスは妻も殺していたそうで、復活した妻から離縁の申し出があり、法王様はそれを了承した。

 僕が蘇生した赤ん坊は、きっとこれから父を知らずに母と2人で暮らしていくんだろう。



「私は何故、牢に入れられているのだ?」


 一方、法王様の殺害未遂と、大量虐殺の罪で投獄された第一王子エルシスは、15歳の成人の儀を終えた後の記憶を失っていた。

 15歳のエルシスは、髪が短かったらしい。

 目が覚めたら腰まであるような長髪になっていて、自分の身に何が起きたのかと驚いていた。


「あなたは大切な家族を殺めた記憶が無いのですか?」

「そんなことはしていない」

「では、当時の謁見の間を撮影した映像をお見せします」


 謁見の間には撮影用魔道具が設置されている。

 そこに記録された映像には、僕たちが神の間へ転送された後すぐ、エルシスが入ってきてからの行動が映っていた。



 謁見の間に入ってきた時点で、エルシスは返り血に染まっている。

 その右手には真紅の大きな宝石が握られ、左腕には鮮血を滴らせてグッタリしている赤ん坊が抱かれていた。


『エルシス?! そなた何を……』


 玉座から立ち上がり驚く法王様。

 傍に控えていたミセジ神官もギョッとして振り返っている。

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべるエルシスが、黒い魔法の矢を放つ。

 漆黒の矢が、法王様とミセジ神官の胸を貫いた。


 そこから後は、僕たちが謁見の間に戻ってきて見た状況が映されている。



「な、なんだこの映像は?! 私はこんなことはしていない!」


 動揺するエルシスは嘘をついているようには見えない。

 彼の記憶は、成人の儀で祈りを捧げたところまでだった。


「エルシスよ、そなたは成人の儀で神に何を願った?」

「それは……」


 石と金属で作られた頑丈な牢の前で、法王様が問いかける。

 すぐには答えられないエルシスには、何か言いづらい事情があるみたいだ。


「王になる力が欲しいと願ったのでしょう? 謁見の間を血の海にしたときのあなたは、前世の私ソフィエを殺したエミリオと同じ表情かおをしていたもの」


 法王様の隣に立つセラフィナ(ソフィエ)は、悲しそうに眉を寄せて牢の中を見つめる。

 セラフィナがエルシスの企みを知ってショックを受けたように、ソフィエも双子の兄に殺されたことが心の傷になっているんだろうね。


 エルシスは法に裁かれ、罪を悔いながら生きていくんだ。

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