城内の騒動が大体落ち着いた頃。
謁見の間で、勇者認定式が行われた。
「アルキオネが今代の勇者であることを認める。あのとき城内にいた者ならば、誰もが認めるであろう」
法王様は低く穏やかに響く声で人々に言う。
あのとき、というのは城内で大量虐殺があったときのことだ。
謁見の間の左右に立つのは貴族たち、その何人かは城勤めをしており、あの現場に巻き込まれていた。
彼等は返り血で染まりながら黒い矢を放ってすれ違う人全てを攻撃していたらしい。
ほとんどの人は心臓を貫かれて絶命、辛うじて生きていた人も死を予感するほどの重傷だった。
俺とセラフィナ(ソフィエ)の魔法は謁見の間にいながら城全体に及んだので、謁見の間が見えない場所にいた人々からは魔法の残滓のキラキラした光の粒子しか見えなかったそうだけど。
「私、第五王女セラフィナ・リュエル・メシエは、勇者アルキオネ様の妻になることを宣言いたします」
認定式で多くの人々が集まる中、セラフィナ(ソフィエ)は王族らしい堂々としたよく通る声で宣言した。
隣で聞いてる俺と深層意識下で情報を共有するアルキオネは「え?! 婚約の宣言じゃなくて妻なの?!」とツッコミを入れつつ驚いたのは内緒だ。
「認めよう。勇者と聖女は共にあるべきものだ」
法王様は驚きもせずにそんなことを言う。
集まった人々も一斉に拍手で祝っていた。
◇◆◇◆◇
「勇者様、聖女様、私たちの命を救って頂き、心より感謝申し上げます」
「みんなを生き返らせたのはアルの光と海の魔法よ、私は少し手伝っただけなの」
認定式を終えてメシエの港を出るとき、見送る人々の感謝の言葉にセラフィナ(ソフィエ)はそう答えていた。
本来のセラフィナは、神の間を出た途端に深層意識に沈み、今も出てこなくなっている。
「では、プレアまでお送りしますね」
往路と同じくミセジ神官が微笑み、護衛の2人と共に帆船に乗り込む。
船も往路と同じ帆船で、船乗りたちも同じ顔ぶれだ。
海神ラメル様はもはや当然の如く、追い風と海流で帆船を高速船に変える。
雲ひとつ無く澄み渡る碧空の下、白い帆を掲げる大型帆船は揺れがほとんど無く滑るように蒼海を進んだ。
「お土産いっぱい買っちゃった。これ美味しいの。みんな喜んでくれるかしら」
「っていうかセラ、君は城に残らなくていいの?」
「いいのいいの。というより、城に残っていたら
第五王女のセラフィナはメシエに残るかと思いきや、兄に植え付けられたトラウマが酷すぎてマトモに暮らせないからって理由で、一緒にプレアに向かっている。
プレアでセラフィナが帰る場所は孤児院なんだけど、いいのかな?
俺はそろそろ夏休みが終わるから、学生寮に帰るので同居ではない。
「それに、メシエの聖女は昔から勇者に出会ったらついていくものなのよ」
「俺が卒業するまでは別々に暮らすけどいいの?」
「大丈夫よ、アルが孤児院に遊びに来てくれるでしょ?」
って笑顔で言う彼女は、やはりマイア孤児院に帰る気だ。
商人たちの支援のおかげで建物が立派になってセキュリティもバッチリだから、城より安全かもしれないけど。
孤児院に住む王女様ってどうなの?