「おわああぁぁぁあぁあ」
マギの股間から伸びる白鳥。
マギの意思に関係なく勝手に動き、手当たり次第に妖怪を殺害していく。
「やるっすねぇ、マギ様」
「神葉! 笑ってないで鳥を止めよ!」
ここは城を覆う森林。
強力な妖怪こそいないものの、雑魚妖怪なら少なからず存在している。
数時間前までのマギであれば、その程度の妖怪にすら怯えて何もできなかった。
しかし、今は違う。
彼は白鳥という最強の武器を獲得してしまったのだ。
「このようなもの望んでいないぞ!」
もちろん、これはマギにとって不幸。
身体の一部が異形なのだから。
まるで妖怪。
公爵として、人として、プライドの高い男の子として、これは非常に恥ずべきこと。
「でも、強くなれてよかったじゃないっすか」
「よくない!」
能天気な侍従長・神葉に対し、マギはブチギレる。
「人はこの世の中で最も進化した生き物ぞ。なにせ知能がある。ところが、どうだ。妖怪どもは喋ることすらできない。文化も文明も持たない下等生物ではないか。自分がそれに似た卑しい姿になってしまうなど……」
「でも、マギ様も知能低いじゃないっすか」
「神葉!」
この生意気な中年も白鳥で退治してくれようか。
その考えを止めたのは、ちょっとした引っ掛かり。
「だが、あの黒鳥の妖怪は言葉を喋ったような……?」
「やっぱマギ様おつむがヤバイっすね」
「こやつ!!」
マギの怒りが白鳥を暴れさせた。
しかし神葉にとっては恐るるに足らない。
白鳥のくちばしを軽やかな身のこなしで回避する。
* *
ここで一旦、時間を巻き戻す。
妖怪の大群との戦闘中、割れた卵の中身を浴びてマギの股間が白鳥になった。
暴れん坊と化した股間のおかげで危機を脱したはいいものの、結局マギを取り巻く事態は好転しなかったのだ。
最初こそ、
「妖怪を撃退したぞ! これで余も元服。堂々と城に残れる」
と安堵したマギ。
だが城に帰還して意気揚々と弟妹に股間を見せたところ、
「「「キモ!!!!!」」」
ドン引きだった。
「兄上~、股間が白鳥になった人を城の跡取りにはできないよぉ!」
* *
追放命令は覆らなかったのだ。
「どうせ生えてるなら使わなきゃ損っすよ」
という神葉の提案により股間トレーニングが始まった。
とは言え、白鳥はマギの意思とは関わりなく勝手に動く。
「自分で動かそうと思って動かすことはできないんすか?」
「難しい。せいぜい、このように……ぐっと上に持ち上げるとか、ちょっと、こう……輪を描くようにするくらいのものよ」
「それでも以前のマギ様に比べたらご立派ですね」
「……どういう意味で、だ?」
神葉は目をそむけた。
「……おい、何とか申せ」
「ちょっと失礼。小便するっすね」
神葉は草むらに向かって用を足し始めた。
「そう言えば……」
マギははっとした。
尿意がない。
股間が白鳥となり、元々そこにあったモノがなくなっている。
その影響だろうか。
「さて、マギ様。これからどこ行くっすか?」
袴を直しながら、神葉が問う。
「決まっている。あの黒い鳥の妖怪を見つけに行く。あやつとの戦いの中で、余の股間がこのようなことになったのだ。あやつめなら股間を元に戻す方法を知っているはず。余は絶対に元の股間を取り戻すぞ!」
「そっすか。じゃ、取りあえず城下町に向かう感じっすかね」
「それはない」
「はい?」
城下町には、大勢の人がいる。
そんなところに今の状態で行けるはずがなかった。
「公爵たる余の股間が白鳥ぞ!? 見られれば、一巻の終わりではないか!!」
「しまえばいいじゃないっすか」
「こやつは余の言うことを聞かぬのだ!」
「縮こませられないんすか?」
「無理だ」
「じゃ、そのまま行くしかないっすね」
「やめろ! 無理矢理引っ張るな! うわぁ」