目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第004話 股間トレーニング

「おわああぁぁぁあぁあ」


 マギの股間から伸びる白鳥。

 マギの意思に関係なく勝手に動き、手当たり次第に妖怪を殺害していく。


「やるっすねぇ、マギ様」

「神葉! 笑ってないで鳥を止めよ!」


 ここは城を覆う森林。

 強力な妖怪こそいないものの、雑魚妖怪なら少なからず存在している。

 数時間前までのマギであれば、その程度の妖怪にすら怯えて何もできなかった。

 しかし、今は違う。

 彼は白鳥という最強の武器を獲得してしまったのだ。


「このようなもの望んでいないぞ!」


 もちろん、これはマギにとって不幸。

 身体の一部が異形なのだから。

 まるで妖怪。

 公爵として、人として、プライドの高い男の子として、これは非常に恥ずべきこと。


「でも、強くなれてよかったじゃないっすか」

「よくない!」


 能天気な侍従長・神葉に対し、マギはブチギレる。


「人はこの世の中で最も進化した生き物ぞ。なにせ知能がある。ところが、どうだ。妖怪どもは喋ることすらできない。文化も文明も持たない下等生物ではないか。自分がそれに似た卑しい姿になってしまうなど……」

「でも、マギ様も知能低いじゃないっすか」

「神葉!」


 この生意気な中年も白鳥で退治してくれようか。

 その考えを止めたのは、ちょっとした引っ掛かり。


「だが、あの黒鳥の妖怪は言葉を喋ったような……?」

「やっぱマギ様おつむがヤバイっすね」

「こやつ!!」


 マギの怒りが白鳥を暴れさせた。

 しかし神葉にとっては恐るるに足らない。

 白鳥のくちばしを軽やかな身のこなしで回避する。


     *     *


 ここで一旦、時間を巻き戻す。

 妖怪の大群との戦闘中、割れた卵の中身を浴びてマギの股間が白鳥になった。

 暴れん坊と化した股間のおかげで危機を脱したはいいものの、結局マギを取り巻く事態は好転しなかったのだ。

 最初こそ、


「妖怪を撃退したぞ! これで余も元服。堂々と城に残れる」


 と安堵したマギ。

 だが城に帰還して意気揚々と弟妹に股間を見せたところ、


「「「キモ!!!!!」」」


 ドン引きだった。


「兄上~、股間が白鳥になった人を城の跡取りにはできないよぉ!」


     *     *


 追放命令は覆らなかったのだ。


「どうせ生えてるなら使わなきゃ損っすよ」


 という神葉の提案により股間トレーニングが始まった。

 とは言え、白鳥はマギの意思とは関わりなく勝手に動く。


「自分で動かそうと思って動かすことはできないんすか?」

「難しい。せいぜい、このように……ぐっと上に持ち上げるとか、ちょっと、こう……輪を描くようにするくらいのものよ」

「それでも以前のマギ様に比べたらご立派ですね」

「……どういう意味で、だ?」


 神葉は目をそむけた。


「……おい、何とか申せ」

「ちょっと失礼。小便するっすね」


 神葉は草むらに向かって用を足し始めた。


「そう言えば……」


 マギははっとした。

 尿意がない。

 股間が白鳥となり、元々そこにあったモノがなくなっている。

 その影響だろうか。


「さて、マギ様。これからどこ行くっすか?」


 袴を直しながら、神葉が問う。


「決まっている。あの黒い鳥の妖怪を見つけに行く。あやつとの戦いの中で、余の股間がこのようなことになったのだ。あやつめなら股間を元に戻す方法を知っているはず。余は絶対に元の股間を取り戻すぞ!」

「そっすか。じゃ、取りあえず城下町に向かう感じっすかね」

「それはない」

「はい?」


 城下町には、大勢の人がいる。

 そんなところに今の状態で行けるはずがなかった。


「公爵たる余の股間が白鳥ぞ!? 見られれば、一巻の終わりではないか!!」

「しまえばいいじゃないっすか」

「こやつは余の言うことを聞かぬのだ!」

「縮こませられないんすか?」

「無理だ」

「じゃ、そのまま行くしかないっすね」

「やめろ! 無理矢理引っ張るな! うわぁ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?