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第006話 妖怪と対峙するマギ

「妖怪が現れたぞ!」


 そう遠くないところから悲鳴が聞こえた瞬間マギは走り出した。


「逃げるぞ、神葉!」

「ちょちょちょちょ! なんで逃げるんすか!?」

「自分の命が惜しいからぞ」

「民の命を守ることが公爵の務めっすよ!?!?」


 神葉は問答無用でマギを引っ張って行った。


     *     *


 妖怪の出現場所は住宅地だった。


「あの家の中に閉じこもりました。母子家庭らしいです」


 現場に到着するや、神葉は警察官から報告を受けた。


「神葉様、どうしましょう? 正直、我々警察だけではいかんともしがたいですね。妖怪退治の訓練を受けているわけではないですし……」

公儀祓除人こうぎばつじょにんは近くにいないんすか? そろそろ定期祓除の時期っすよね?」

「今頃はまだ伊方あたりでしょうね」


 荒れる股間を必死に押さえながら、マギはひそひそと神葉に尋ねる。


「公儀祓除人とやらは何ぞ?」

「えぇ……何にもわからないんすね。妖怪退治の専門家っすよ」


 事態は急迫している。

 もたもたしていれば家の中にいる母子の命が危ない。

 となると選択肢はひとつのみ。


「マギ様、いってらっしゃい」

「……へ?」


 神葉はマギをつかんで放り投げた。


「うわぁぁあぁぁぁあ!!」


 マギは屋根を突き破って家の中へと落ちていった。


「マギ様なら退治してくれるっしょ。強いっすから」


 腕を組んでうんうんとうなずく神葉。

 しかし、群衆は青ざめる。


「あんな頼りないガキに何ができるってんだ……」

「もう終わりだよ、この藩」


     *     *


「あででで……。神葉め、無茶しおって……」


 痛む頭部を押さえながら、マギは体勢を直して周囲を見る。

 薄暗い。

 明かりはついておらず、わずかに入り込む日光のおかげで、どうにか様子をうかがうことができる。


 当然ビビリのマギは妖怪に怯えた。

 どこにどんな妖怪がいるのだろうか、と。


 ギギィ……。


 木造の家屋が軋む音。

 そこへ目を向けると……


「うおあぁぁあああぁぁぁ!!!!」


 妖怪を見つけマギは全身を震わせた。

 植物の根っこのような物体。

 うじゃうじゃ。

 1人の成人女性に絡み付いている。

 女性は意識を失っているようだった。


「きゃああぁぁああぁあ!!」

「へあああぁぁぁぁああ!!」


 急に妖怪とは別の場所から悲鳴が起こり、マギは腰を抜かした。

 まさか妖怪がもう一匹?

 そうではない。

 少女の姿。

 マギより少し年上だろうか。


「へ、へ、へ、変態ーーーーーっ!!!」

「む? ……あっ。ああぁぁあぁぁぁ!!!」


 少女が目撃したのはマギの白鳥。

 袴の中から、こんにちはをしていた。

 堂々たる屹立っぷりである。


 ――見られてしまった!!!


 苦痛と恐怖と恥辱に襲われ頭の中は真っ白。

 だが、とりあえず、


「逃げるか」

「助けてくれないんですか!?」


 思わず崩れ落ちた少女。


「って言うか、そもそも誰? 妖怪? 変態?」

「余は公爵ぞ」

「こんなのが……?」

「失礼なことを申すでない。さあ、そちも逃げろ」

「ダメです!」


 少女は涙を散らした。


「お母さんを置いていけない!」


 根っこのような形の妖怪は、彼女の母親に侵入していた。

 妖怪はゆっくりうねる。


 ――人の生き血を啜っておるのか?


「偉い人なら、お母さんを助けてよ! ……お願い……」


 悲しい親子を目の当たりにして、マギの脳裏には自身の母の姿が浮かんだ。

 優しい人だった。

 今はもうこの世にいない。


 白鳥はビンビン。

 妖怪と戦いたがっている。


「余は……偉いぞ!」

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