「今日も多くの観光客で賑わっておりますな、満丸町長」
「あ、あはは……。よ、妖怪もいっぱい出てますね……」
快晴。
穏やかな風。
春爛漫。
観光にはうってつけの長閑な景色。
おかげでここ伊方町の経済は潤っていた。
ここにも妖怪はいる。
今まさに茂みから妖怪が現れ、観光客に襲いかかろうとしているところだ。
「大丈夫ですぞ、
とがった顎を高くあげて見物するのは、この町の副町長こと
彼の言ったことは正しい。
妖怪は出現した瞬間あっさりと命を絶たれてしまうのだ。
大きな棍棒と重い斧で。
淡々と。
粛々と。
「た、確かに、彼がいてくれる間は我が町も安泰ですね……」
まんまると太った胸をほっと撫で下ろすのは、満丸モチミチ町長。
視線の先には一人の青年。
「いよっ、世界の救世主!」
やんややんやと讃えられる青年。
伊方町に妖怪を恐れる者がいないのは彼のおかげである。
「当然だ。
公儀祓除人・瀬良寺サン。
17歳にして難関とされる公儀祓除人試験をパスした天才である。
* *
「さ、差し入れの甘茶です……。せ、瀬良寺様、どうぞ……」
妖怪退治が一段落したところで瀬良寺は満丸町長の邸宅へと招かれた。
かなり妖怪の数が減ったため、しばらくは地元の警察や自警団に任せられるだろう、と。
ひとときの休息。
「美味しいものから快適な宿まで、何から何までありがたい。満丸町長、感謝します」
「い、命がけで働いていただいていますから、当然ですよ……」
そんなことを言いつつ、もちろん町長には打算があった。
そうでなければ、いくら強いといっても自分より随分と年下の男に対し、こうも下手に出られるものではない。
「わ、我が町は、瀬良寺様のお父様の頃より、定期祓除でお世話になっておりますもので……」
瀬良寺の父親もまた公儀祓除人だった。
鬼のように強く、広く日本中にその名を轟かせていた。
「お、お父様によく似ておられますな……」
「見た目だけではなく、技量においても父上のようにならねばと奮闘中ですよ」
「い、いいえ……。じ、実力も似ておられます……」
「とんでもない。ただ、野望はあります」
瀬良寺は傍らに置いた武器に触れながら、
「父上の棍棒を受け継ぎ、そこに斧を加え、二刀流を採用しました。ゆくゆくは父を超えるつもりです」
「そ、それはやはり……」
「父上を超えなければ、父を殺したやつを討ち取ることはできませんから」
お茶を飲み終えると、瀬良寺は立ち上がった。
廊下を歩く間も満丸町長はずっとへこへこしていた。
「な、なにとぞ、よろしくお願いします……。な、なにせ、この町には観光しかありませんから……」
「将軍陵墓に付きまとう悩みですね」
「で、ですから、定期祓除は今後とも是非、瀬良寺様にお越しいただきたく……」
日本各地に存在する将軍陵墓。
陵墓ごとに派遣される公儀祓除人は固定されている。
もし瀬良寺にそっぽを向かれ弱い公儀祓除人をよこされるようになれば、伊方町としては痛手である。
だからこそ満丸町長は媚びるのだった。
「く、靴をどうぞ……。あ、お前……!」
わざわざ瀬良寺の靴を出してあげた時、満丸町長の目の前に一人の少年が現れた。
「ツキザネじゃないか……!」
「お待ちください。この者に心当たりが?」
瀬良寺は町長の肩を強く掴んだ。
「え、ええ……。お、お恥ずかしながら、こいつ、数日前からいなくなっておりまして……。ま、まったく、どこへ行ってたんだ……?」
満面の笑みの町長。
息子に近寄ろうとした瞬間。
「殺します」
瀬良寺は少年を斬った。