突欠クロワと名乗る少年に、2人は道案内をしてもらうことに。
道すがら神葉はそれとなく尋ねた。
「今ここの定期祓除って誰が担当してるんすか?」
「瀬良寺サン様だ」
「……へぇ」
誰もが聞いたことのある名だった。
マギは知らなかった。
「強いのか?」
「お前、何も知らないのか? 瀬良寺様は現代最強って噂だぜ。実際、俺も戦ってるところを見たけど強いのなんの」
庶民にタメぐちを聞かれても、今さら動じるマギではない。
そんなことよりクロワの顔に影があるのを見逃さなかった。
「何か悩みでもあるのか? 余が相談に乗ってやろうぞ。民を守るのが公爵の務めゆえ」
頼りない公爵からの提案。
あからさまに嫌な顔をしたクロワだが考え直した。
威厳の無さによって初対面の人にも緊張感を与えないのがマギの強みだった。
「満丸町長にはツキザネって息子がいるんだ。俺とツキザネは友達なんだけどよ……あいつ、行方不明になっちゃって」
「ふむ。ならば、警察に行けばよかろう」
「んなことくらい言われなくたってわかるわ! 警察が捜索しても見つからないから心配してんだよ!」
「ならば探偵に――」
「もういい。お前に相談した俺がバカだった」
ところがクロワの悩みはあっさりと解決してしまう。
満丸町長の家に着くと、そこには無事に帰宅したツキザネの姿があったのだ。
「ツキザネ! 心配させやがって!」
満面の笑みで駆け寄るクロワ。
そのすぐ目の前でツキザネは斬られた。
斬ったのは公儀祓除人・瀬良寺。
大きな斧がきらりと光る。
「ツ、ツキザネ……!!」
満丸町長は息子を介抱したかった。
だがそれは瀬良寺に阻止された。
同様に神葉がクロワの行く手を阻む。
「何するんだよ、おっさん! 俺の友達が殺されそうなんだぞ!」
クロワが怒鳴っても、神葉は冷静に、
「ただ腕を斬られただけっすよ」
「十分大事じゃねえか!」
「それに、ほら、あれはあんたの友達じゃないっすよね?」
「はぁ!? どういう意味……」
反論しようとしたクロワだったが、できなかった。
神葉の言う通り、友人だと思っていたソレは友人ではなかったのだ。
ツキザネの形をした何者か。
そいつの斬られた腕からは、ぐにゃぐにゃと、植物の根のような物が伸びていた。
「これって……?」
「
戸惑うクロワに瀬良寺が説明する。
「やけに無口だから怪しいと思った。試しに斬れば大当たり。妖怪にはそれぞれ固有能力があるが、縞根の場合は人間に擬態する能力なんだ」
「え……じゃあ本物のツキザネは?」
「擬態する際に、対象の人間は殺される」
「……は?」
それ以上の説明は控え、瀬良寺は満丸町長に向かって、
「町長、離れていてください。縞根は弱い妖怪ですが念のため――」
「……ザネ……」
「町長?」
「ツ、ツキザネ……!」
瀬良寺が強く掴まなければ満丸町長は走り出していただろう。
息子に成り済ました妖怪にすがりつくため。
「ほ、本物の息子がもういないのなら、せ、せめて偽物でもいい……。こ、この子は私が育てます……!」
「何をバカな!」
瀬良寺は満丸町長を押さえる。
神葉はクロワを。
この状況で唯一自由に動けるのはマギ一人だった。
彼には縞根を倒した実績と自信がある。
そして股間にはうずうずしている白鳥が。
「好きなだけ暴れるがよい」
マギが命令した次の瞬間には勝敗が決していた。
股間を飛び出した白鳥が縞根を貫き殺したのだ。
「これを見られるのはちと恥ずかしいが、さりとて民を守るのが公爵の務め。皆の者、このことは是非内密にな」
てっきり、ここでも歓声が飛ぶと思い込んでいたマギ。
しかし現実は違った。
「人の見た目をしていても正体が妖怪ということもある」
瀬良寺が斧と棍棒を構えた。
「神妙にしろ、妖怪! お前を逮捕する!」
「……むぅ?」