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第011話 伊方捕囚

 伊方警察署。

 その一室においてマギは犯罪者としての扱いを受けていた。

 公爵だからといって忖度はない。

 それどころか、


「人権すらないではないか!」


 叫ぶマギは全裸。

 手と足と白鳥を縛り付けられていた。


「通常、妖怪に情けはかけない。その場で殺処分が基本だ」


 見せつけるように鞭をしならせるのは瀬良寺。


「だが妖怪なら言葉を喋れないのに、お前は喋る。だから殺さず逮捕した。答えろ。お前は何者だ!?」

「余は公爵ぞ!」

「股間から白鳥を生やした公爵がいるものか!」


 瀬良寺が容赦なく鞭を振るった。


 ――くっ。このようなことになったのも神葉めが逃げたからぞ。


 マギは満丸町長宅での出来事を回想する。


     *     *


 瀬良寺が斧と棍棒を構え、


「人の見た目をしていても正体が妖怪ということもある。神妙にしろ、妖怪! お前を逮捕する!」

「……むぅ?」


 期待していた歓声の代わりに罵声を浴びせられたもののマギは動じなかった。

 自分の実力に自信がありすぎたのだ。


 ――公儀祓除人とて余には敵うまい。


 慢心していた。


「公爵たる余に対するその態度。改めさせてやろうぞ」

「ちょちょちょ! マギ様! ヤバイっすよ!」


 神葉の制止も聞かず、マギは白鳥を瀬良寺めがけて伸ばした。

 殺すつもりはなかった。

 ただちょいと締め上げるだけの予定だった。

 ところが予想外に瀬良寺は強かった。


 瀬良寺は走り、斧で白鳥を押さえつつ、棍棒でマギを叩いた。

 目にも留まらぬ速さだった。


「〝捧棒〟鬼殺し!」


 棍棒には毒が含まれていた。

 相手の体内を一瞬で駆け巡り酩酊させる。


「あ、あ……」


 為す術などなかった。

 マギは倒れこみ助けを求めるように顔を上げたが、神葉はとっくに逃げ出していた。


「なんて鮮やかな身のこなしなんだ」


 瀬良寺が感心するほどであった。


     *     *


「まだ答えないのか!? お前は何者だ!?」

「うぅ……。悪いのは神葉ぞ……」


 マギは拷問に耐えた。

 と言うより耐えるしかなかった。

 何者かと問われても自分でも自分が何なのかよくわからなかった。


「これ以上、舐めた態度をとるようならどうなるか。教えてやる。窓の向こうを見てみろ」


 瀬良寺に促されマギは視線を動かした。

 目に入ったのは広場に連行される男。


「妖怪を自宅で飼育するという罪を犯した愚か者だ」

「確かに愚かぞ」

「やつの罪にふさわしい罰は死。これより斬首刑が執行される」


 目隠しされた男は、


「嫌だ。死にたくない。赦してくれ」


 と叫ぶ。

 しかし願いは聞き入れられない。

 敷物の上に座らされると、瞬く間に介錯人により首を打たれた。


「どうだ? 人の首は思ったよりも飛ぶだろう?」


 瀬良寺に耳元でささやかれてもマギは無言。


「この世で道を踏み外した者の末路だ。お前もああなりたくなかったら洗いざらい吐け。そうしたら手心を加えてやろう。死罪にはならないよう取り計らってやる」

「……余は……」


 死にたくないから必死で考えた。

 自分は何者なのか?

 なぜ股間が白鳥なのか?

 自分は妖怪ではなく人間だと自信を持って言えるか?


「余とて人間らしくありたい……。しかし……ある日突然、股間が白鳥になってしまったのだ」


 理解の及ばない回答に瀬良寺は失笑した。


「羨ましいものだ。ある日突然、体の一部が白鳥になってものんびり旅行を楽しめるなんて」

「……そちにはあるのか?」

「何が?」

「股間が白鳥になるのと同等の苦しみが」


 瀬良寺はちょっと困惑した。

 すぐに威勢を取り戻し、


「ある! 私はずっと探してるんだ。復讐すべき相手を。そう、公儀祓除人だった父上を殺した仇を!」

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