「私の父も公儀祓除人だった」
全裸のマギを放置して、瀬良寺は自分語りを始める。
「この〝捧棒〟鬼殺しを相棒に、最強の公儀祓除人として名を馳せていたんだ」
「存命か?」
「死んだ!」
「なにゆえ?」
「殺されたんだ! よりによって……同じ公儀祓除人の者に!」
瀬良寺は眉間にしわを寄せる。
「父上は優しい人だったのに」
たくましい肉体。
軽々と瀬良寺を持ち上げ、肩車し、走り回る。
一歩外に出ると武勇を誇る大男だが、家では朗らかな人だった。
「んじゃ、行ってくるぜ」
いつものように出掛けた父が、
「ただいま」
を言ってくれることはなかった。
「だから私は公儀祓除人になった。父を殺した公儀祓除人が誰なのかを突き止めるために!」
「余は公爵ぞ」
同情する様子もなくマギはふんぞりかえって、
「先祖代々藩主を務めてきた家柄ぞ。ある特殊な事情さえなければ藩主の地位を父より継いでいたことであろう」
「急に自分語りか?」
「それをそちに謗られたくはない」
マギが伝えたかったのは、
「余は黒い鳥の妖怪を探している」
股間が白鳥になるまでのあれこれを打ち明けた。
「……それを信じろと?」
瀬良寺の冷たい視線が白鳥に注がれた。
「そちは仇敵を、余は黒い鳥の妖怪を、それぞれ探している。協力すればはかどるというもの」
「ふん。誰が妖怪なんかと手を組むか」
瀬良寺はつれなかった。
* *
そんな2人の様子を遠くから見守る者がいた。
大きな木の枝に寝そべって望遠鏡を覗きこんでいる。
「人間には攻撃しないんすね、白鳥」
神葉である。
この男、瀬良寺がマギを殺さないことまで読んで、ずっとのんびりしていた。
――もう少し休憩してから助けに行くっすかね。
しかし神葉にも読めない展開があった。
「うをん!!?」
突然の地鳴り。
それは遠くから徐々に近づいてくる。
地震ではない。
「まさか……?」
望遠鏡を覗く。
見えたのは、
「山鯨!!!」
その名に相応しく、山の如く鯨の如く大きな妖怪。
全身は毛で覆われ、鼻はボタンのよう。
一言で表現するなら猪の妖怪だ。
「こりゃ厄介かもっすね」
縞根のような雑魚妖怪ではない。
実力のある公儀祓除人が数人がかりになって、ようやく倒せる強さ。
山鯨は着実に歩を進める。
どうやらお目当ては他の妖怪と同じく将軍陵墓らしい。
警察や自警団では太刀打ちできない。
「となると公儀祓除人の出番っすよねぇ」
望遠鏡を警察署に向ける。
神葉の思った通り、瀬良寺は急いで準備をして取調室を出た。
後に残されたのは全裸のマギ一人。
「さて、ご主人様を救出に向かうっすかね」