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第013話 突欠副町長の陰謀

満丸まんまる町長、お悔やみ申し上げます」


 一連の報告を受け、突欠とんがり副町長は満丸町長の自宅へと赴いた。

 町長はうなだれている。

 息子ツキザネはもうこの世にいない。

 事実を受け入れることは難しかった。

 息子のなきがらさえ見つからないのだから。


「しかし、あなたは町長としての責務を果たさねばなりませんぞ。妖怪退治はもちろん、町政に課題は山積しているのですからな」

「……」

「もしどうしても無理なのでしたら……」


 突欠副町長は町長の耳元でそっとささやく。


「お退きなさい」


     *     *


「これでいいのか、親父」


 帰宅途中の輿の中でクロワがつぶやいた。


「何のことだ?」

「だって俺……あの日ツキザネと一緒に遊んでて、それで、親父に言われた通り、林の奥まであいつを連れてって……そしたら、急に縞根が出てきて……」


 クロワは青ざめていた。

 妖怪に襲われた友を助けることもできず、ただじっと眺めていた。

 自分だけは助かりたくて逃げ出した。

 父にだけは打ち明けていた秘密。

 それがずっとクロワを苦しめていた。


「上出来だ」


 しかし父の言葉はあまりに軽かった。


「……え?」

「お前はよくやった。おかげで町長の跡継ぎはいなくなり、町長自身も脱け殻のようだ。私が町長の座に就くのは時間の問題だろう。ゆくゆくはお前がこの町の支配者だ」

「……違う……違うよ……」


 ――俺が本当にほしいのは、そんなんじゃなくて……。


     *     *


「硬い……っ!!」


 瀬良寺は苦戦していた。

 すぐさま現場に駆けつけたものの、強大な敵を相手に屈辱を味わうはめになった。


 山鯨。

 その体は極めて丈夫で、瀬良寺の斧も棍棒もまったく通用しない。

 平気な顔をして山鯨は進み続ける。

 巨大な足が伊方の町を蹂躙する。


「瀬良寺様、お助けぇ~」

「ひいい、死にたくない」

「こんなに大きい妖怪を見るの初めて!」


 逃げ惑う人々。


「逃げろ! とにかく遠くへ!」


 避難を呼び掛けるだけが精一杯の瀬良寺だった。


 ――私だけでは勝てそうにない。だが応援を呼ぼうにも、他の公儀祓除人は近くにはいない。なによりこの私自身が公儀祓除人という栄誉を背負う身! こんな妖怪に負けるわけにはいかない!!


 気合いを入れ直したところで状況は変わらない。

 着々と歩を進める山鯨に、とうとう、


「このままでは将軍陵墓を踏み潰されかねない……!」


 ところまで来てしまった。

 もしそんなことにでもなれば前代未聞の不名誉。


「どうすれば父の名誉を傷つけずに済むんだ!?」


 絶望にうちひしがれた、その時。

 一筋の白が山鯨の足をすくった。


「んなっ!?」


 巨大な山鯨の転倒により、大きな音と粉塵が生じた。


「うぐぐ……いったい何が? ……あ!」


 衝撃で尻餅をついた瀬良寺。

 顔を上げると、そこには意外な人物が。


「お、お前! 脱獄したのか!」


 マギだった。

 もちろん全裸のままではない。

 神葉に服を着せてもらったのだ。


「何をしに来た? というか脱走は重罪だぞ! さっさと警察署に戻って服を脱いでろ!」

「民を守るのが公爵の務めぞ」


 マギに動じる素振りはなかった。

 威風堂々と股間の白鳥をぶらつかせ、


「神葉、このでかい妖怪はどうすれば退治できる?」

「まあ、無理っすね」

「……むぅ?」

「山鯨はめちゃめちゃ強いんで、わしらじゃ倒せっこないっすよ」

「……逃げるぞ!」

「それはダメっす」


 しっかりとマギの首根っこを掴みながら、神葉は瀬良寺の方を向く。


「あんたも協力してくれるなら勝機はあるかもっすけど」

「ふざけるな!」


 瀬良寺は乗らない。


「股間から白鳥の生えたガキとだらしないおっさん。そんなやつらと共闘するだと!? 私は誇り高い公儀祓除人だ。そんなことはできない!」

「余は公爵ぞ」

「黙れ、ガキ」


 マギは黙らない。


「見栄のために人命を見捨てるのが公儀祓除人か?」

「いや、あんたさっき逃げようとしてたっすよね」

「黙れ、神葉」


 神葉は黙らない。

 瀬良寺に対して、


「あんたの親父さんだって、人の命のためなら悪魔とも手を組むんじゃないっすかね」

「くっ……」


 お前に父上の何がわかる。

 瀬良寺はその言葉を飲み込んだ。


「……共闘を……受け入れる」

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