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第015話 クロワと隠し砲台

「なんでそんなに町長になりたいんだ? 副町長でも十分じゃんか。俺なんて別に町の職員くらいでも構わないぜ」


 田舎にはそぐわないくらい立派な邸宅の中。

 それとない口調でクロワは父に話しかけていた。

 どうしても父が正しいとは思えなかった。

 地位のために他人の子供を犠牲にするなんて……。

 真意を知りたかった。


「ふぅ……お前はまだまだ何もわかっていないようだな」


 突欠副町長はネクタイを緩めながら溜め息をつく。


「地位の向上に伴い、集まる情報の質と量が向上するのだぞ。そこらの庶民では知り得ないことも私は知っている。例えば妖怪をおびきだす方法だって」

「……え?」

「縞根や山鯨を伊方におびきだしたのは私だ」


 クロワの手足が震える。

 父である突欠副町長は、それに気づくことなく、


「ふっふ。防衛に関する職務怠慢。多数の人命が失われた。こうなると満丸町長の失権はまぬかれないだろうな」

「そんなのおかしいぜ!」


 もう我慢できない。

 クロワは怒りに任せてカーテンを引く。

 窓の向こうには山鯨が町を蹂躙する光景が広がっていた。


「ほら、無茶苦茶じゃねぇか! どうすんだよ!? 誰かの足を引っ張ろうとして、自分達まで危なくなってるんだぜ!? 俺ら、このままじゃ住む町が無くなっちまう!!」

「隠し砲台がある」

「……へ?」

「密かに砲台が配備されてるのだ。私は地位が高いから、そういう情報を知っている。やはり高い地位に就くことに勝る安全保障はない」

「じゃあ砲台がどこにあるかも知ってんだな?」

「将軍陵墓のてっぺんだ」


 クロワは家を飛び出した。


     *     *


「あの男、何者だ……?」


 まだ戦闘できずにいる瀬良寺。

 片膝をついたまま戦況を見守っていた。

 今、山鯨に立ち向かっているのは神葉。

 目、口、耳というわずかな弱点を的確に刀で攻撃する。

 現代最強と謳われる瀬良寺でさえ目を見張るほどの剣技であった。


「マギ様、今度は右っす」

「うむ!」

「いや、今のわしから見て右ってつもりっすね」

「こうか!」

「今のわしの状態的には左に行ってほしい感じっすね。あ、ヤバイ、落ちそうっす」


 神葉が足場にしているのは白鳥。

 マギが股間から伸ばして上下左右へと操る。


「少し間違えば落下する状態で、あれほどの戦いを見せるとは……」


 心から感嘆する瀬良寺だったが、同時に拭いきれない疑問を抱いた。


 ――本当に、こいつはただの召し使いなのか?


 疑いに心をとらわれたのは一瞬だけのこと。


「おわっ! マギ様、後ろにお願いっす!」


 山鯨の鼻から臭い息が放たれる。

 神葉までもがこれを食らってしまえば、もう後はない。


「危なかったっす。もうちょっと慎重に行った方がいいみたいっすね」

「いや、ダメだ」


 瀬良寺は即座に反対した。


「このペースだと、倒す前に将軍陵墓を蹂躙される」


 今や山鯨と将軍陵墓の距離はとてつもなく近かった。

 町のシンボル。

 国の尊厳。

 失うわけにはいかない。


 じりじりとつのる焦りを打ち砕いたのは一発の砲音。


「こ、これは大砲!?」

「どこから……?」

「あそこぞ!」


 マギが指差したのは将軍陵墓の上。

 そこには大砲とクロワの姿が。


「俺が決着をつけるぜ!!!」

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