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第020話 大ピンチ!

「案外、楽勝だなって……思ってたんすけどね」


 空中飛行する沖弓。

 5匹のうち1匹を退治することに成功した。

 ところが、


「師匠! 沖弓が合体しました!」


 現代最強の公儀祓除人である瀬良寺が焦るのも無理はない。

 合体すれば体が大きくなるし、体が大きくなれば雪玉も大きくなる。

 巨大化した沖弓は、巨大な沖弓を造っている。

 ただし、そのスピードは決して早くない。


「合体すると少し動きが鈍くなるようだな。ならば、この隙に退治してくれようぞ!」


 ここまで目立った活躍なしのマギが、白鳥を伸ばす。

 先程とは違い、沖弓は白鳥を避けようとさえしなかった。

 命中。

 しかし、


「貫けないぞ!!」


 沖弓の強度が増していたため攻撃は失敗。

 そして放たれる巨大雪玉。


「これは打ち落とせないっす!」


 神葉はマギをかばいながらジャンプ。

 瀬良寺も飛ぶ。

 ところが、あまりにも大きな雪玉は個人を狙い撃ちするような攻撃ではなかった。


 豪華客船、半壊。


 大きな揺れの中で自由は効かない。

 壁に打ち付けられる。

 弾け飛んだ木片が身体中に突き刺さる。


「うぅ……。そちら、大丈夫か!?」

「あんただけ大丈夫っすね」


 神葉が全力で守ったおかげでマギは無傷。

 代償として神葉には無数の傷。


「せなんちゃらは!?」

「瀬良寺だ! ……私もかなり負傷した」


 神葉も瀬良寺ももはや戦える状態ではなかった。


「沈没しないで済んだのが奇跡的なくらいっす」

「どうするんですか、師匠? あと一発でもあの雪玉を食らえば船はもちませんよ」

「……何も思い付かないっすね」


 苦渋の表情を浮かべる神葉と瀬良寺。

 沖弓はもうひとつ雪玉を造り始めている。


 窮地。


 大揺れする船の上で、マギは海を見ていた。


「神葉、あの妖怪を退治するのは無理ぞ」

「わかってんすよ、そんなことは」

「だが、次の攻撃を避けることはできるかもしれないぞ」

「へー。どうやってっすか?」

「船を動かす」


 マギは黙々と白鳥を伸ばし始めた。

 白鳥は海の中に沈んでいく。


「雪玉が放たれた瞬間に白鳥で海底を強く押す。そうすることで船の進路を強制的に変えれば……」


 バカな主君の賢いアイデアに、神葉は言葉を失った。


「一か八か、やってみる価値はありそうっすね」

「師匠、賭けるんですか? ……この公爵様に」

「これで悪運は強い子なんすよ」


 神葉と瀬良寺は、マギの体をしっかりと押さえた。


「来たぞ!」


 巨大沖弓が巨大雪玉を発射。

 マギは白鳥を海底に突き刺す。


「ぬぬぅ……!!!!!」

「マギ様、気張るっすよ!!」

「ぬぉぉお……!!!!!」


 超高速で走る豪華客船。

 迫り来る雪玉。

 直撃の直前。

 回避に成功した。


「大成功ぞ!」

「喜んでばかりいられないっすよ、マギ様!」


 神葉が心配したのは大きな雪玉によって起こる荒波。

 不安は的中し、海は荒れ、船は傾き、3人は体勢を崩した。


「ああっ」


 マギが悲痛な叫びをあげた。

 神葉と瀬良寺が駆け寄った時、マギの体からは大量の血が流れていた。

 木片が刺さり、全身打撲で複数箇所を骨折。


「随分と無茶をなさる!」


 怒鳴る瀬良寺にマギは、


「……余は公爵ぞ……。民を守るのが務め……」


 と、息も絶え絶え。

 その様子に瀬良寺は失笑。

 呆れと尊敬の入りまじる想いだった。


「さすが、公爵様」

「余のことを……師匠とお呼びしてもよいぞ……」

「それはお断り」


 股間が白鳥のやつから学ぶことなどないからだ。

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