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第022話 その名はリケイカイン

「ぼく、リケイカイン」


 妖怪は股間の黒鳥をぶらつかせながら名乗った。


「そうなんすか。わしは神葉っす」

「瀬良寺サンだ。よろしくな」


 当たり前のように妖怪と自己紹介をする神葉と瀬良寺。


「おかしいぞ!!!!」

「何がっすか?」

「何もかもぞ! そもそも妖怪が人語を喋ることに驚かないのか!?」

「そう言えば……ヤバイっすね」


 瀬良寺も頷きながら、


「噂にも聞いたことがありません。確かに驚くべきことです。……しかし、どうでもいいでしょう」

「そうっすね」


 2人とも、すっかりリケイカインという存在に気を許してしまっている。

 和やかな雰囲気。


「もうよい!」


 痺れを切らしたマギ。

 白鳥をブルンブルンとしならせて今にも攻撃しようとした。

 しかし神葉がそれをぎゅっと握る。


「そんなことしてる場合じゃないっすよ」


 神葉が睨むのは沖弓。

 リケイカインの攻撃によりダメージを食らったとは言うものの、それは致命傷ではない。

 その証拠に沖弓は新たな雪玉の製造を開始している。


「えぇい! ならば瀬良寺、こやつを拷問せよ!」

「ダメだ」

「なにゆえに!?」

「リケイカインには戦略的価値がある。ついでに言うと、ちょっとかわいい」

「余には拷問したであろうが!?」

「マギにはかわいげがない」

「余は公爵ぞ!!!!」


 神葉も瀬良寺もやけにリケイカインに好意的だった。

 そのことにマギの心がざわめく。


 ――おそろしい。一体これは何事ぞ? 余の方がかわいいというのに。


「マギ好きぃ♡」


 唯一マギを肯定してくれるのはリケイカインだった。

 マギにはそれが疎ましい。


「よせ。余にはぶりっ子など効かないぞ」

「好きぃ♡」

「近寄るでない! ……そち、仲間になりたいのか? 絶対ダメぞ」

「どうして?」

「人間と妖怪が仲良くなれるわけがないであろう! もしどうしても仲間になりたいと申すなら……裏切れ。そう、妖怪を倒すのだ。そうすれば余と親しくする栄誉を与えてやろうぞ」

「うん♡」


 案外リケイカインはあっさりとマギの言うことをきいた。


「ふふん。あやつは空を飛べる。沖弓退治に徹底的に利用して、あとはポイしてくれるわ」


 マギの最低な策も知らずリケイカインは沖弓めがけて飛んだ。

 そして、すっぽりと、その体内に入り込んだ。


「……」

「……」

「……」


 それっきり音沙汰なし。


「しまった。裏切らせるより先に股間を元に戻せと命じておくべきであった!」


 後悔するマギだったが、もう遅い。

 片目の沖弓は着実に雪玉の製造を進めている。

 発射までは時間の問題。


「戦略的価値があると思っていたが……」

「なかったっすね」


 瀬良寺と神葉は落胆。

 今度の今度こそ希望がついえた。


「そちら、覚えておるか? 余がこの船に乗ろうとした時のことを」


 唐突にマギが尋ねた。


「無賃乗船しようとした時っすよね」

「失望したぞ、あの時は」


 冷めた様子で、神葉と瀬良寺が答えた。


「思い出してほしいのは、そこではないぞ。白鳥を掴んで余をハンマー投げの要領で吹っ飛ばせと提案したであろう?」

「……まさかマギ様……」

「今こそ、この思い付きを実行に移す時ぞ!」


 神葉が躊躇したのは、ほんの一瞬。

 ためらっている暇などなかったからだ。

 白鳥をがしっと握った。


「しかし仮にも公爵様ですよ!?」


 そう言いつつも瀬良寺の手は白鳥を握っていた。


「敵が空を飛ぶなら、こちらとて空を飛ぶまで。見ていろ、余が直々にやつの心臓を貫いてくれようぞ。……うわぁぁああぁぁぁ!!!!」


 建前は切羽詰まった事態であること。

 本音を言えば、この2人にはマギに対する敬意などほぼほぼないこと。

 その結果、重傷を負っているとは思えないほどの腕力をもって、マギを投げ飛ばした。

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