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第023話 お腹の中で夢を見る

「うわぁぁああぁぁぁ!!!!」


 マギは空に飛ばされた。

 初めての経験に戸惑う。


「……!」


 しかし沖弓と目があい、はっとする。

 今は戦いの最中。

 恐怖に溺れている場合ではない。


「雪玉を放ちおったな!」


 巨大な雪玉はマギに向かって一直線に飛んでくる。

 衝突は避けられない。


「ならば為すべきことはひとつ。ゆけぃ、白鳥!」


 命令を受け、股間から白鳥がびゅっと伸びる。

 丈夫なくちばしは雪玉を貫き、そして飛び散らせた。


「そのまま沖弓も貫けぃ!!!!」


 こうしてマギは沖弓の体内に侵入したのだった。


「……寒い……」


 沖弓の体の中は一面、真っ白。

 雪のような冷たくて白い物質がぎゅうぎゅう詰めになっている。


「まあ、よい。すべて白鳥で蹴散らしてくれようぞ」


 ところが沖弓の白い肉が、まるでマギを押し潰そうとするかのように、うねうねとうごめく。

 頭のてっぺんから爪の先まで揉みくちゃにされ、苦しい。

 呼吸がしづらい。

 酸素が薄い。

 身動きは取れない。


 ――しまった。気絶してしまいそうぞ。


 それどころか、ここで命を落としてしまいかねない。

 意識を失いかけた時だった。

 誰かがマギの耳元でささやいた。


「マギちゃん、死んだらダメよ」


 生死の境目が産み出した幻覚だったかもしれない。


「あなたには大事な役割があるでしょ」

「……誰ぞ……?」

「ほーら、頑張れ! 頑張れ!」


 マギは目を動かして声の主を探す。

 もちろん、そこには誰もいるはずがない。


「だが余は動けないぞ」

「マギちゃんには、これがあるじゃない。すごく立派なモノが」

「……白鳥?」

「そうよ。これを動かして。自分の動かしたいように」


 徐々に、白鳥があたたかく、やわらかい何かに優しく包まれる感覚に陥った。

 どこか懐かしいような。


「……母上……?」


 マギははっとした。

 呼吸がしやすい。

 体を自由に動かせる。

 どうしてだろうと目を凝らす。


「白鳥……! そちのおかげか」


 股間から生える白鳥が暴れまわったおかげだった。

 とは言え感謝する気にはなれない。


「余の不幸はそちが生えてから始まっておるのだ。むぅ、それにしても寒い」

「マギ~♡」

「むっ!」


 白い肉を弾き飛ばした結果、視界は非常にクリア。

 離れたところにいるリケイカインがくっきり見えた。

 リケイカインは沖弓の心臓を指差しながら、


「これ見つけた。褒めて♡」

「やかましい!!!!」


 リケイカインの微笑みはマギには効かない。

 肉の上を走りながらマギは憎悪をあらわにする。


「余の股間を元に戻せ!!」

「無理ぃ」


 マギの白鳥とリケイカインの黒鳥が激しく絡み合う。

 本能のままに暴れる2人が図らずも沖弓を体内から徹底的に破壊していく。

 ただし心臓を除く。

 沖弓の心臓はかなり丈夫にできていた。


「そちなら何か知っているであろう!? そちの股間にも似た物が生えているゆえ!」

「ぼく、わからない。妖怪のこと詳しくない」

「妖怪のくせにか?」

「ぼく、子供だもん」

「子供……なのか?」

「あい♡」


 せっかく会えた標的から何も探り出せずマギは悔しかった。

 苛立ちを拳に込めて、


「えぇい!!!!」


 沖弓の心臓を殴った。


「おわぁ!」


 すると心臓は破裂。

 沖弓は体を保っていられない。

 完全に粉砕。

 空中に投げ出されたマギだが、


「マギ♡」


 幸いなことに、背中に翼を持つリケイカインがマギを拾ってくれた。

 そして、ゆっくりと、船の上へ舞い降りた。


「マギ様、ご無事で!」

「2人ともすごいぞ! たくさんの乗客の命が助かった!」


 神葉と瀬良寺が駆け寄る。

 しかしマギの顔に明るさはない。


「神葉」

「何すか?」

「余の母上はどのような方だった?」

「どうしてっすか?」

「ふと思い出した。だが具体的には思い出せないぞ。顔すらも」

「……あんた、バカっすもんね」

「……」

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