「うわぁぁああぁぁぁ!!!!」
マギは空に飛ばされた。
初めての経験に戸惑う。
「……!」
しかし沖弓と目があい、はっとする。
今は戦いの最中。
恐怖に溺れている場合ではない。
「雪玉を放ちおったな!」
巨大な雪玉はマギに向かって一直線に飛んでくる。
衝突は避けられない。
「ならば為すべきことはひとつ。ゆけぃ、白鳥!」
命令を受け、股間から白鳥がびゅっと伸びる。
丈夫なくちばしは雪玉を貫き、そして飛び散らせた。
「そのまま沖弓も貫けぃ!!!!」
こうしてマギは沖弓の体内に侵入したのだった。
「……寒い……」
沖弓の体の中は一面、真っ白。
雪のような冷たくて白い物質がぎゅうぎゅう詰めになっている。
「まあ、よい。すべて白鳥で蹴散らしてくれようぞ」
ところが沖弓の白い肉が、まるでマギを押し潰そうとするかのように、うねうねとうごめく。
頭のてっぺんから爪の先まで揉みくちゃにされ、苦しい。
呼吸がしづらい。
酸素が薄い。
身動きは取れない。
――しまった。気絶してしまいそうぞ。
それどころか、ここで命を落としてしまいかねない。
意識を失いかけた時だった。
誰かがマギの耳元でささやいた。
「マギちゃん、死んだらダメよ」
生死の境目が産み出した幻覚だったかもしれない。
「あなたには大事な役割があるでしょ」
「……誰ぞ……?」
「ほーら、頑張れ! 頑張れ!」
マギは目を動かして声の主を探す。
もちろん、そこには誰もいるはずがない。
「だが余は動けないぞ」
「マギちゃんには、これがあるじゃない。すごく立派なモノが」
「……白鳥?」
「そうよ。これを動かして。自分の動かしたいように」
徐々に、白鳥があたたかく、やわらかい何かに優しく包まれる感覚に陥った。
どこか懐かしいような。
「……母上……?」
マギははっとした。
呼吸がしやすい。
体を自由に動かせる。
どうしてだろうと目を凝らす。
「白鳥……! そちのおかげか」
股間から生える白鳥が暴れまわったおかげだった。
とは言え感謝する気にはなれない。
「余の不幸はそちが生えてから始まっておるのだ。むぅ、それにしても寒い」
「マギ~♡」
「むっ!」
白い肉を弾き飛ばした結果、視界は非常にクリア。
離れたところにいるリケイカインがくっきり見えた。
リケイカインは沖弓の心臓を指差しながら、
「これ見つけた。褒めて♡」
「やかましい!!!!」
リケイカインの微笑みはマギには効かない。
肉の上を走りながらマギは憎悪をあらわにする。
「余の股間を元に戻せ!!」
「無理ぃ」
マギの白鳥とリケイカインの黒鳥が激しく絡み合う。
本能のままに暴れる2人が図らずも沖弓を体内から徹底的に破壊していく。
ただし心臓を除く。
沖弓の心臓はかなり丈夫にできていた。
「そちなら何か知っているであろう!? そちの股間にも似た物が生えているゆえ!」
「ぼく、わからない。妖怪のこと詳しくない」
「妖怪のくせにか?」
「ぼく、子供だもん」
「子供……なのか?」
「あい♡」
せっかく会えた標的から何も探り出せずマギは悔しかった。
苛立ちを拳に込めて、
「えぇい!!!!」
沖弓の心臓を殴った。
「おわぁ!」
すると心臓は破裂。
沖弓は体を保っていられない。
完全に粉砕。
空中に投げ出されたマギだが、
「マギ♡」
幸いなことに、背中に翼を持つリケイカインがマギを拾ってくれた。
そして、ゆっくりと、船の上へ舞い降りた。
「マギ様、ご無事で!」
「2人ともすごいぞ! たくさんの乗客の命が助かった!」
神葉と瀬良寺が駆け寄る。
しかしマギの顔に明るさはない。
「神葉」
「何すか?」
「余の母上はどのような方だった?」
「どうしてっすか?」
「ふと思い出した。だが具体的には思い出せないぞ。顔すらも」
「……あんた、バカっすもんね」
「……」