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第024話 黒幕の気配

「さて、妖怪退治も成功したし、操縦室に戻って船長に報告を済ませるっすかね。それから、わしら怪我の手当てをしなきゃ」

「待てぃ」


 何食わぬ顔の神葉に、不満げなマギ。


「どう考えても、こやつを受け入れるのはおかしいであろう」


 マギは白鳥をみなぎらせてリケイカインを睨む。


「いや、この子には敵意が見えないっすよ。それにマギ様の股間が白鳥になったわけも知らないんすよね。子供相手に何をムキになってんすか」

「リケイカインは飛行能力を持ってるんだ。今後、大いに役に立ってくれそうじゃないか。しかも、かわいい」


 神葉と瀬良寺はさも当然のようにのたまう。

 自分だってかわいい子供なのにという怒りが、マギの股間を暴れさせた。


「余自らが拷問して洗いざらい吐かせようぞ! ついでに、その顔をパンパンに腫れ上がらせてくれるわ!」


 今にも無駄な争いが始まりそうだった、その時。


「「「逃げるなーーーー!!!!」」」


 突然、大勢の怒声が甲板に響いた。


「むっ。船長が追われておるではないか」


 追いかけるのは船員たちであった。

 何事か?

 そう問いかけるまでもなかった。

 答えは一目瞭然。


「来るんじゃねぇ!!! 爆破させちまうぞ!!!」


 広井船長の体には何本ものダイナマイトが巻き付けられてあったのだ。

 しかも、すでに着火済み。

 爆発までは時間の問題。


「へっへっへ。どうせなら、マストごと爆破しちゃる」


 素速い身のこなしでマストを登る広井船長。

 追いかけようにも神葉と瀬良寺は重傷。

 マギが白鳥を伸ばしたところで、ダイナマイトをどう処理すればいいかわからない。

 バカだから。

 この状況で的確な行動を取れるのは、


「リケなんちゃら! どうにかしろ!」

「あい♡」


 マギに命令されて嬉しそうなリケイカイン。

 翼をはためかせると、広井船長の元までひとっ飛び。


「おら! この船ごとみんな沈んでしまえ! うっ、うわぁぁああぁぁ!!」


 広井船長がダイナマイトの火を消され、マストから突き落とされるまで、ほんの数秒のことだった。


     *     *


「広井船長は奥さんと娘さんに逃げられてから、おかしくなってしまったんです」


 操縦室の中で、船員がマギたちに語り始めた。

 話題の中心人物は気を失い、横になっている。


「女性を激しく憎むようになって、いつも悪口を言うんです。昔は性別に関係なく誰にでも優しかったんですけど、今じゃ女性のお客さんにさえ悪態をつく始末で」

「で、とうとう船ごと女を海に沈めようとしたってわけっすか」


 神葉が広井船長を縄で縛りながら、


「ただでさえ沖弓退治で大変な時に迷惑なやつっすね」

「その沖弓ですが、船長は自分でおびき寄せたかのような言いぐさをするんです。こりゃどう見ても正気の沙汰じゃないもんで、ぼくらは船長を取り押さえようとしたんですけど……」


 しかし広井船長は逃げてしまい、それどころかダイナマイトを用いて船を爆破させようとしたとのこと。

 神葉は瀬良寺に、


「妖怪をおびき寄せる方法なんてあるんすか?」

「伊方町で突欠副町長が同じようなことを言っていましたけど、眉唾かと」

「あんたにはそれを探ってほしかったんすけどね。わしらに付いてきちゃったんすもん」

「うっ……すみません」


 ここで広井船長が目を覚ます。


「頭が痛い……うわぁ! 妖怪じゃ!」


 リケイカインを見て、おののく船長。

 ついでに船員たちも、


「やっぱり、こいつ妖怪だよな? ここにいさせて平気なのか?」


 と、ざわつく。

 本人はそれを意に介さず、船長に対し単刀直入に、


「どうやって妖怪を呼んだの?」

「わしは知らん。やったのは蚊虻教じゃ」


 蚊虻教。

 その名を聞いて、神葉の眉がピクッと動いた。

 瀬良寺だけがそれに気づいた。

 船長は自白を続ける。


「わしは嫁と子供に逃げられてから、女を憎むようになったんじゃ。そんな時に、わしに声をかけてくれたのが蚊虻教じゃった。あっこの教団は表向きはおとなしくちょるが、本当のところは別の目的がある」

「別の目的って?」

「人類滅亡じゃ」


 妻子が逃げ出した理由は、船長の暴力だった。

 しかし船長は自分の非を認めず、それどころか、この世のすべての女性を憎悪するに至った。

 だから豪華客船「天弓の翼」を妖怪に沈没させるという教団の提案をのんだ。


「わしだけは助かって、今度のイベントに参加するつもりじゃったのに」

「それ、どんなイベント?」

「妖怪の卵を崇めるとか何とかいう話じゃ。ようわからんが、なんだかありがたい行事じゃろ」


 妖怪の卵という言葉が、マギの目をかっと開かせる。


「蚊虻教とやらが余の股間の秘密を知っていそうぞ。ならば行かねばなるまいな?」


 神葉と瀬良寺が頷き、


「場所もわかんないすけどね」

「公儀祓除人としても、治安維持のために見過ごせません。ついていきます」


 一方、船員たちはマギの白鳥を見ておののきながらも、公爵相手には何も言えずじまいであった。


     *     *


 順風満帆。

 船は破損しているものの、滑らかに海を進んだ。

 とうとう港が見えてきた。

 朝日が昇る。


「神葉も瀬良寺も、やけにそちに対して好意的ぞ」


 甲板の上でマギはリケイカインと二人きり。


「その上、船長の口をたやすく割らせおった」

「へへへ♡」

「褒めてなどいない! ……妖怪にはそれぞれ固有能力があるらしいな。そちの固有能力はどのようなものぞ?」

「秘密だが?」

「隠すつもりか!?」

「あい♡」

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