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第026話 妖怪を怖がらない村

 すっかり子供たちと打ち解けたマギ一行。

 蚊虻教ぶんぼうきょうに関する情報を得るため村まで案内してもらうことになった。

 到着後の第一声は、


「馬小屋にしては小さいな」


 というマギの暴言であった。


「マギ様、これは家っすよ」

「これが……? 小さいし古いしみっともないぞ」

「失礼って概念ないんすか?」


 とは言うもののマギの驚きも尤もだった。

 確かに村は古びていた。

 築数十年以上と思われる木造平屋は隙間だらけ。


「そちら、生きていて楽しいか?」


 純粋な疑問を子供たちに投げかけるマギ。

 返ってきた答えは無邪気なうなずき。


「おや。どこ行ってたんだ、お前ら」


 村人たちが子供たちを出迎えた。

 痩せ衰えてはいるが朗らかで生きていて楽しそうな様子だった。


「余は公爵ぞ。あわれな子供たちに恵みを施してやった。敬え」

「こんなちっこいガキが公爵だって?」


 故郷から遠く離れた地。

 マギを知る者は一人もいない。

 連れのバカさに呆れつつ瀬良寺が会話を引き継ぐ。


「私は公儀祓除人。わけあって、ここに来たのだが……やけに騒がしいな」


 畑仕事では発生しない騒音が響いていた。


「まるでお祭り騒ぎだ」

「まさに、そのお祭り騒ぎだよ」


 村人はにっこり微笑んだ。


     *     *


「今日は夏祭りなんだよ」


 村がいきいきとしている理由のひとつがこれだった。

 瀬良寺は祭りの準備を手伝うと申し出た。


「一応確認するが、この祭りは蚊虻教のイベントなのか?」

「いいや。蚊虻教の皆さんが布教イベントを開きなさるってんで、だったらうちらはお祭りを同時開催して盛り上げてあげましょってなったのよ」

「蚊虻教とは仲が良いようだな?」

「もちろん。あの方々のおかげで、最近じゃちっとは楽な暮らしができるようになったんですから。……幕府は何もしてくれないでしょ?」


 教団は炊き出しなどを通じて、村を援助しているらしい。

 なるほどな、と瀬良寺は納得する。


 ――貧しい人達に布教するのは定石だもんな。


 しかし、わからないこともある。


「きゃっきゃ。妖怪さん、もう一回、高い高いしてー」

「あい♡」


 リケイカインは村の子供たちを背中に乗せて飛んでいた。


「妖怪が怖くないのか?」


 瀬良寺の問いに対し村人は、


「妖怪との共存が教団の教えなの。妖怪なのに喋るのには驚いたけどね」


 一方、こんな時に何もしないでくつろいでいる不届き者がいた。

 マギだ。


「仲良くなるのは情報収集の鉄則っすよ」


 神葉から注意を受けても、


「余は公爵ぞ」

「だったら子供たちの世話でもしてたらどうっすか?」

「余は子供ではないゆえ遊びなどしないぞ」

「子供じゃないすか」

「余にできることと言えば妖怪退治くらい……ぬおぉ!?」


 突然マギの袴から白鳥が飛び出した。

 すさまじい速度で近くの木に向かって伸びる。


「何事ぞ!? ……むぅ!」


 木の枝から何かが飛んだ。

 それは地面に降り立ち、姿を白日の下にさらした。


「猿?」


 にしては奇妙な形だった。

 おかしな点は風貌だけではない。


「裏切り者には死あるのみ」


 喋ったのだ。

 ここまでくると、鈍感なマギにもわかった。

 妖怪である。


「また喋る妖怪が出たな」

「にしても何だこりゃ。この辺りでは見かけねぇな」

「変なの」


 村人たちの呑気な反応。

 神葉と瀬良寺は目を合わせる。

 考えることは同じだった。


 ――教団におびき寄せられた妖怪か!?


 妖怪と共存しようという村人たちの思いとは裏腹に、猿のような妖怪はすぐさま攻撃を仕掛けた。


「来るがいいぞ! 余が退治てくれよう! ……むぅ?」


 やる気満々のマギには目をくれず、妖怪はリケイカインに向かって一直線。


「どのような者であれ、掟からは逃れられない!」

「きゃはぁ♡」


 妖怪はリケイカインばかりを執拗に攻撃した。


「確かにリケイカインは沖弓退治に協力した。妖怪に憎まれても仕方はないだろうな」


 得心しつつも不安げな瀬良寺。


「師匠、またしても厄介な妖怪です」

「余る猿っすもんね」

「いかがなさいますか?」

「とりあえずリケさん、そいつを突き刺すとかはやめたほうがいいっすよ~」


 神葉の忠告は遅かった。

 リケイカインの股間の黒鳥が余る猿を貫いた。

 すると傷口から多数の余る猿がどろどろと出てきたのだ。


「傷口から自分を増やすのが、そいつの固有能力っす」

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