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第028話 ラビリンス・レース

「教祖じゃなくって救祖ですぅ」


 男はそう名乗ると無駄口を叩かず、てきぱきと話を進めた。


「まず蚊虻教なんですけども、こちらは平和を祈る宗教ですね。祈ったり念じたりするだけじゃなくって、人々を妖怪から守ったり、貧しい人々に食事を提供したり、いいこといっぱいしてるんで。あ、ついでに言うと、しつこい勧誘とかしてませーん」


 救祖の喋りを聞きながら瀬良寺は、


「教団のトップにしては意外と愉快な御仁だな」

「悪いやつほど笑顔が上手いものよ。余など常に唇を結んでいるぞ」

「確かに仏頂面だな」

「……」


 救祖の話は続く。


「さてさて、皆さんのお目当てはやっぱりね、これでしょう! 今回のイベントの目玉! 卵です! いぇーい!」


 信者が布を被せた何かを厳かに持ち寄った。

 それは先程マギたちに話しかけた男であった。

 救祖がぺろんと布を取る。

 現れたのは、卵。

 人の頭よりも大きいサイズである。


「余が父上よりたまわった卵と似ているぞ!」


 ただし殻の模様は異なっていた。


 ――やはり、この教団は怪しいぞ。余の股間を元に戻す方法を知っているかもしれない。


 マギの眼光が強くなる。


「これはね、実は妖怪の卵なんですね。皆さんとお近づきになれた印に、プレゼントしたいんですけど……残念ながら1個しかないんですぅ~~。ごめんな」


 振り返り、遠くを指差した救祖は、


「っつーわけで、卵はあそこにある迷路を最初にゴールした人に差し上げますぅぅぅ!」


 紫色の瓦が積み置かれている。

 即席の迷路施設のようだ。

 ルールは単純で、


「早い者勝ちな! ただし、瓦の壁を壊すのとか、その上を歩くのとかはダメですぅ~。それじゃ……レース開始!!!!!」


 救祖の掛け声と同時に、花火が打ち上がった。


 参加希望の人たちが駆け出す。

 もちろんマギたちも。


「よし、入ろうぞ」

「マギ様、どこから入るんすか?」


 迷路の入り口は複数あった。

 皆、思い思いに選んで入っていく。


「一番不人気なところにするぞ。人混みは好きではないゆえ」


 マギたちが入った入り口に数人が続く。

 小汚ないおっさん。

 ガリガリのおっさん。

 目がぎらついたおっさん。


 迷路の中を進みながら3人のおっさんが鳩首。


「ライバルは少ない方がいい。初対面の俺たちだが、今だけ共闘して、あのヘンテコな4人組を潰そうぜ」

「いいね」

「承知」


 おっさんたちは後ろからマギたちに襲いかかった。

 と言って彼らに特別な武器も体術もない。

 当たって砕けろの精神である。


「何すか?」


 当然のことながら妖怪との死闘を潜り抜けてきた者たちは強い。

 神葉と瀬良寺が目にも止まらぬ速さでなぎ払った。

 一方、マギとリケイカインはおっさんどもを気にせず堂々と歩き続けていた。


「くそ! こいつらには勝てねぇ!」

「あのガキどもを人質にしよう!」

「承知」


 走り出すおっさんたち。

 神葉は呑気な声で、


「マギ様、リケさん、勝手に先々行っちゃダメっすよ。どんな罠が仕掛けられてるかわかんないんすから」


 しかし実際に罠にかかったのは3人のおっさんたちだった。

 マギとリケイカインの先回りをしようとしたところ、落とし穴に落ちてしまったのだ。


「「「助けてくれー」」」


 落とし穴の下から汚い声が響く。


「わしは家族を養うために、一攫千金の想いで、ここに来た哀れな男なんです!」

「腹が減ったから卵焼きを食べたかっただけなんです!」

「無職だから貴重な妖怪の卵を手土産にして就職試験を受けに行くつもりでした!」


 こんなやつら放っておくっすよ、と神葉は言う。

 しかしマギは袴から白鳥をまろびだす。


「民を守るのが公爵の務めぞ」


 白鳥は3人のおっさんを落とし穴から引きずりあげた。

 感謝と称賛を期待するマギ。

 ところが、おっさんたちは、


「「「ひぃいいい、妖怪だ!!!!」」」


 怖がって入り口へと走って逃げてしまった。

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