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第029話 この世界の歴史

「余は妖怪ではないぞ!」


 イライラをリケイカインにぶつける。

 強烈な張り手。

 リケイカインは怒らず、むしろ満面の笑みで、


「マギ、好きぃ♡」

「気色悪い!」


 リケイカインから逃れるようにマギは迷路を進む。


「マギ様、危ないっすよ!」


 神葉の不安は的中。

 一人でさっさと歩くマギの足がくくり罠にかかり、更に上から網が落ちてくる。


「はぁっ!」


 助けたのは瀬良寺。

 棍棒をくるくる回転させ網を絡め取った。


「ったく、気をつけろよ、マギ」

「様を付けろ」

「公爵様はありがとうも言えないのか?」

「ふん!」


 マギの態度に呆れつつ、瀬良寺は棍棒から網を取り除こうとする。

 しかし、できない。

 網は複雑に絡まっていた。

 神葉が刀で斬ってあげた。


「師匠、かたじけないです」

「いいってことっすよ。それぞれに持ち味があるっすから。補い合っていくもんす」


 さすがのマギも用心することを覚えた。

 仕掛けにおびえながら、そろりそろりと進む。


「むぅ!」


 次なる仕掛けは矢だった。

 数枚の瓦が引っくり返り、弓矢が現れる。

 弓を引く人はいない。

 一種のカラクリであった。


「補い合うぞ!」


 マギはリケイカインを盾にした。

 神葉と瀬良寺は武器を使って、矢を打ち落とす。


「マギ様、補い合うってそういうことじゃないっすよ」


 矢がもう飛んでこなくなったことを確かめてから、神葉は冷たい眼差しを主君に向けた。


「リケさんも嫌だったら、やり返していいんすよ。マギ様なんて一応爵位を持ってるだけで、城を追放された身分なんすから」

「マギ、かっこいい♡」

「うーわ、ヤバイっすね」


 などと会話しながら歩いているうち、早速、仕掛けが発動した。

 今度は刀。

 やはりこれも人が刀を持って襲いかかって来るわけではなく、無人の攻撃であった。


「マギ様、リケさんを盾に!」

「うむ!」

「リケさんは鳥で刀をへし折ってくださいっす!」

「あい♡」


 瞬時に指示を出す神葉。

 マギとリケイカインは完璧に応じてみせた。


「……」


 不甲斐なさを痛感するのは瀬良寺である。

 自慢の棍棒はリーチで鳥に及ばない。

 神葉ほどの統率力もない。

 特に何もできない。


「それにしても……この迷路の仕掛けは意図的なんすかね」


 瀬良寺の苦悩に気づかぬふりをして、神葉が首をかしげる。


「意図的でないとしたら、自然発生したということか?」

「バカなこと言わないでくださいっすよ、マギ様。さっきから仕掛けが、落とし穴、網、弓矢、そして刀って風に近代化してるんす」

「つまり?」

「歴史を再現してるように見えるんすよね」


 無知蒙昧なことを恥じないマギ。

 堂々と、


「そちの申すこと、さっぱりわからないぞ」

「勉強サボってるっすもんね。いいっすか、ここでついでに歴史の授業をするっすよ」

「よせ。難しい話を聞くと、余は具合が悪くなる」

「原始時代、人は妖怪相手に無力だったっす」


 迷路を進みながら、授業も進める。


「人類には石器くらいしか武器がなかったっすからね」


 だが次第に人類は文明を発展させていった。

 辿り着いた技術の最高峰が刀である。

 これに伴い、妖怪退治はかなり容易になった。


「当然、強い人が権力を持つっすから、武士を中心とした政治体制ができるわけっす。いわゆる御一新っすね。マギ様、あんたが爵位を持ってて、ふんぞりかえっていられるのも、あんたのご先祖様が頑張ったからなんすよ」

「ふむ」

「理解できたっすか?」

「うむ」

「できてなさそうっすね」


 神葉はもう一度同じ説明を繰り返す。

 マギが覚えるまで何度でも喋り続けるつもりだった。

 こんな機会でもなければ、サボリ体質のマギに勉強してもらうのは難しいからだ。

 しかし、


「師匠、迷路が終わるようです!」


 瀬良寺の言葉に、マギはうきうき。


「よし、授業は終わりぞ! 助かった。熱が出そうで仕方なかったゆえ」

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