――やはり妖怪と蚊虻教には繋がりがあるらしいぞ。
「やい、救祖。余の股間を元に戻す方法を知らないか!?」
高ぶる気持ちを抑えきれないマギ。
しかし糸の上に立つ救祖から返ってきたのは、
「あ、バカだ」
「余は公爵ぞ! 無礼なことを申すでない!」
「身分は百も承知ですぅ。バーカ、バーカ」
「バカと申す方がバカぞ! そちの方がバカ! バカ!」
子供じみたやり取り。
精神的に大人の瀬良寺はつとめて冷静に、
「公儀祓除人として見過ごせない! 救祖よ、蚊虻教は幕府に刃向かう反乱分子か? 口を割ってもらうぞ」
棍棒をちらつかせて圧をかける。
「幕府にって言うか、人間のすべてに刃向かう感じですね」
救祖は朗らかだった。
「全人類を殲滅するために、私は妖怪と裏で手を組んでるんですぅ」
「狂ってる……!!」
瀬良寺は歯軋りする。
「沖弓をおびき寄せて船を襲わせたのも?」
「私のしわざですね」
「そして次はこの村の人たちを皆殺しにしようとしているのかっ!?」
「まあ、それもあるんですけどぉ……」
救祖は余る猿と目を合わせる。
2匹の余る猿の手には卵が。
「約束通り、卵を2個用意した。裏切り者と交換してほしい」
「いいよ~」
ここでマギの目がキラッと光った。
「大事なのはそれぞ! リケなど、どうでもよい! なにせゴールに置かれてあった卵は割れてしまったゆえ」
そう言うとマギは祭壇までゆっくり歩いた。
「ほれ。余がゴールに一番乗りぞ。卵を寄越せ」
「やば~!」
救祖はドン引きだった。
マスカレード・マスク越しでもはっきりわかるくらい驚愕と軽蔑の表情を浮かべる。
「とんでもないバカがいる!!!」
「卵を渡すなら不敬な発言を許してやろうぞ」
「そこに落ちてる殻でも拾いなよ、バカ」
「これは割れておるし、中には何も入っていなかったようだぞ」
「当たり前じゃん。それ偽物だし。って言うか、大事な卵をお前らに渡すわけないじゃん。バーカバーカ」
「騙したのか!?!??」
もはやマギの頭の中に、リケイカインのことなど無かった。
ただ自分を愚弄された怒りのみが彼を動かした。
マギは白鳥を伸ばす。
もちろん憎き救祖に一矢報いるためである。
「助けて♡」
一方、自分の危機を忘れられそうなことに怯えるリケイカイン。
精一杯かわいく、おねだり。
「今、行くっすよ!」
「待ってろ、リケイカイン!」
ただちに神葉と瀬良寺が動いてくれた。
「自分たちが敵陣のど真ん中にいること、忘れちゃってないですかぁ~~~???」
救祖は余裕だった。
暴れるマギたちを見下ろしたまま、ニヤニヤ。
「はい、どーん」
救祖の合図とともに迷路を形成する壁が動き出した。
まるで蛇のようにうねり、徐々に狭まり、マギたちを圧死させようとする。
明らかに、それはカラクリだった。
「カラクリは法律で禁止されているはずだ!」
瀬良寺が棍棒を振るう。
神葉は刀を。
マギは白鳥を。
瓦でできた壁など、この3人にかかれば、どうということはなかった。
「人類殲滅の目的。妖怪との同盟。あまつさえカラクリ禁止令違反。とても許されはしない。飛べ!」
瀬良寺は鳩を飛ばす。
「お前たちの悪事、警察に報告しておく! 法の裁きを受けろ!」
「あ~、もうマジめんどくせーわ」
肩を落とす救祖。
「余る猿さん、このゴミどもを蹴散らすの手伝ってほしいんですけどぉ」
「構わない。ただし、貴様に渡す卵はひとつだけにしてほしい」
「ん~。まあ、しゃーないか。よし、それで手を打ちましょう!」
契約成立。
その途端、5匹の余る猿のうち4匹が跳躍する。