余る猿が襲いかかってくる。
「どうする!? やつには攻撃が効かないであろう?」
斬ったり刺したりすれば敵を増殖させてしまう。
ならば選択肢はひとつ。
「私の棍棒で余る猿を酩酊させましょう!」
瀬良寺が叫んだ。
酩酊させるだけで殺せるわけではない。
その場しのぎにしかならないことは瀬良寺にもわかっていた。
だが、
「今はそれが最善っすね。じゃあマギ様は白鳥でやつらを追い込んでくださいっす」
神葉が的確に指示を出す。
「神葉は!? そちは何もしないのか!? 働かざる者、食うべからずぞ???」
「ここぞとばかりに仕返しするの、うざいっすねぇ。わしは糸を裁ち切りに行くっすよ」
というわけで3人が動く。
対する余る猿は猿のように素速い。
しかし強いわけではない。
「「「「ふわぁ……」」」」
瀬良寺の棍棒で寝かしつけるまでに10秒もかからなかった。
「増殖さえさせなければこの程度の妖怪、取るに足らないぞ」
「互いに補い合った結果だぞ、マギ」
マギをどやしつける瀬良寺。
彼の視線は師匠である神葉を追っていた。
「そう簡単に斬れないっすか……」
神葉は余裕ぶる救祖の顔を見上げた。
特製の糸は刀ごときに負けはしない。
それに余る猿はもう1匹残っている。
絶対的に救祖が有利だった。
「私も加勢しよう」
余る猿が神葉に向かって飛びかかった。
「斬られて増殖するつもりなのバレバレっすよ」
神葉は退却した。
――このままでは卵を奪えないぞ。
勝機を見出だせずマギはいらついた。
「ゆけぃ、白鳥!」
マギの股間から白鳥が伸びる。
しかし深い考えなどない。
「そちが無限に増殖するなら、余は永遠に突き刺し続けてやろうぞ!」
白鳥に刺された余る猿。
傷口から、どろどろと余る猿が増殖する。
マギを殴り付けながら瀬良寺は、
「バカ! それじゃあ敵を増やすだけだろ!」
混乱する現場を落ち着かせたのはリケイカインだった。
「マギ、余る猿を食べちゃえ♡」
「むぅ!」
妙案だった。
突いても刺しても逆効果。
しかし、いっそのこと食べてしまえば……
「消化されてしまうというわけっすね! さ、マギ様。好きなだけ食べちゃってくださいっすよ! お腹ぺこぺこなんすよね!?」
「そんな妖怪じみた戦い方、余は決してしたくないぞ!」
「これも公爵の務めっすから」
「うぅ……」
まさか本当に食べられやしないだろう。
たかをくくっていた余る猿。
だが案外、白鳥はぺろりと余る猿をたいらげてしまった。
「ついでに私が酔わせた余る猿も今のうちに食べておけよ」
瀬良寺に言われるがままマギは白鳥に食事をさせた。
妖怪を食べれば食べるほどマギの体から疲れが取れて体調が回復した。
――惨めぞ。だが、ようやくこれで卵が手に入るというもの。
余る猿が手にしていた卵に向けて白鳥を伸ばすマギ。
ところが、
「あっ……!」
空から伸びてきた糸に横取りされてしまった。