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第040話 カミングアウト

 一同は居間に円座する。

 瀬良寺はここにいたるまでの経緯を手短に話した。

 そして蚊虻教討伐の協力を要請。

 これに対し母――瀬良寺ビタリアはきつい表情を一切崩すことなく、


「今すぐ公儀祓除人を引退しなさい」

「母上!」

「誤解してはいけません。私とて御所藩の忠臣。蚊虻教を除外せよと殿がお望みなら、従わない理由はありません」

「だったらどうして私が公儀祓除人を辞めなきゃいけないんですか?!」

「交換条件です」


 ビタリアは息子を見つめる。


「こうでもしなければ、あなたはいつまでも家業を継がないでしょう」

「父上を殺害した公儀祓除人を見つけ出すためです」

「どうでもよいことです」


 きっぱりと言い放つビタリア。

 しかし、どこか苦しげでもあった。


「ああ、あの忌まわしい公儀祓除人の顔を思い出してしまう。我が夫の命と心を私から奪った憎い男」

「何ですって?」


 瀬良寺は驚愕する。

 ビタリアは視線をサソリに移す。

 臣下が主君に向ける目付きではない。


「我が夫は性的に狂っていました。男に生まれながら、男を愛することしかできなかったのです」


 くどくどと亡き夫に対する不満を口にするビタリア。

 初めて知る衝撃の事実に、息子がいくら動揺しようとお構い無しに。

 止めどない差別表現を制したのはサソリだった。


「サソリだってゲイなのにぃ!」


 またしても瀬良寺は動揺した。

 サクラも困惑。

 リケイカインは始終ニヤニヤ。

 マギは興味なさげに座っている。


「サソリ様……それは本当ですか? しかし、あなたには奥方様がいらっしゃいます」


 あわあわする瀬良寺。

 サソリは堂々と、


「実は妻ちゃん、男なんだ」

「えっ!!」

「御所藩始まって以来のゲイカップルなんだ」


 サソリの笑顔に卑屈さはなかった。

 瀬良寺は即座に額を床にこすりつけ、


「そうとは知らず、母上がご無礼を」

「あんたのお母さんはこのこと知ってるよ。まさか臣下にまで隠し通せるわけないじゃんか。知ってるくせにサソリの前で差別するのが良くないの!」

「申し訳ございません!!!」

「あんたが謝ることないよ。そ・れ・に、いくらひどいことを言われたって、サソリと妻ちゃんの愛は永久不滅なんだもんね~~だ」


 堂々と同性との愛を語るサソリ。

 そんな主君の様子を見れば見るほど瀬良寺の心がざわついた。


 ――同性愛者でありながら異性と結婚した父親はいったい何なのだ?


     *     *


「父上の死の真相のことでしょうか?」


 ビタリアに連れ出され部屋に2人きり。

 瀬良寺は思いきって尋ねた。


「あなたの父に真相なんてものはありませんよ?」


 ビタリアはいぶかしげに答えた。


「先程、父上が……その……」

「それが原因とは言ってません。鬼を退治している途中で、同僚に裏切られ、殺された。これがすべてです」


 ほっとすればいいのか、がっかりすればいいのか、判断しかねる瀬良寺であった。

 父の死の真相が花の都にある。

 そう言ったのは救祖だ。

 伝説の公儀祓除人を探すヒントになればと藁にもすがる思いで御所藩に来た。


 ――担がれていたようだな。


「強いて言えば……」


 ビタリアが戸棚をいじりながら、


「あの人が御所藩で妖怪退治をした時の報告書なら、大事なことが書かれてあるかもしれません」

「それはどこに?」

「お城の書庫です……が」


 ビタリアは謎の瓶を2本、手に持ち、


「そんな話をするために呼び出したのではありません」


 彼女は膝をつき、険しい顔を息子に近づける。

 2人の間には、棍棒。


「約束しなさい。この一件が片付けば必ず跡を継ぐと」

「もちろんです。家名に誓います」

「よろしい」


 ビタリアはどこか満足げに、


「〝捧棒〟鬼殺しは毒を放つ棍棒です。本来、酩酊以外にもあと2つの毒が使えるのです。それを今から授けましょう」

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