瀬良寺が母から秘伝の毒を継承している間のこと。
別室ではマギたちがくつろいでいた。
「妻ちゃんの肖像画、見たい? 見たいよねぇ? んもう、しょうがないなぁ。見せてあげる」
サソリは頼まれてもいないのに、配偶者の似顔絵を見せつけまくった。
しかし妻とは言うものの、その性別は男性。
だからサクラは言葉選びに困った。
「ろれも綺麗な奥方……お方れあります」
「呼び方とかは別に気にしなくていいよ。奥さんでも奥方でも旦那でもパートナーさんでもルドルフちゃんでも何でもいいからね」
「は、はいぃ」
「あ、早口でごめんねー?」
サソリがゲイであることを告白した影響はなかった。
特にマギは迫り来る眠気との戦いに必死で、それどころではなかった。
「ほーんと、こいつらって呑気なんだか、優しいんだか」
ほっこりするサソリ。
寂しげな視線を絵の上に落とす。
カルト教団にハマってしまった良人。
必ず救いたいという想いが募る。
「いる!」
突如として、ここまで黙ってニヤニヤし続けていたリケイカインが口を開いた。
「あんた、『マギ好きぃ~』以外もしゃべれるんだ」
サソリがちくり。
リケイカインは障子を見つめる。
「庭にお客さん」
サクラはそれを言葉通りに受け取って、障子を開けた。
客がいるなら挨拶しなければと思った。
素直で礼儀正しい子だった。
「あれ……?」
庭先には誰もいなかった。
ところが、どこかから声がする。
「バレちゃったじゃ~ん」
「仕方あるまい。こうなれば堂々とするのみ」
暗闇から姿を表したのは2人の子供。
夜道で出会った双子――赤ユリと黒バラだった。
「曲者だ! 出合え!」
双子の存在に気づいた使用人たちが駆けつける。
「瀬良寺家が蚊虻教に出入り自由を言い渡した覚えはないぜ!」
「黒バラ、あ~し、やっちゃってい~?」
囲まれても動じずに赤ユリは袂を探る。
黒バラは不愉快そうに、
「救祖から騒ぎを起こすなと言われておる」
「あっ、手が滑っちゃった~」
わざとらしく赤ユリがよろめく。
それと同時に小型の武器を取り出し、使用人たちにぶつける。
大きな音。
悲鳴。
「何、あれ!? 見たことないけど……カラクリ!!?」
サソリは正しかった。
その武器の名はチェーンソー。
あっという間に、庭が血に染まっていく。
「やっちゃったものはしょ~がないっしょ~?」
チェーンソーを振り回しながら赤ユリが笑う。
「それに~、こいつら蚊虻教に反抗しようとしてるっぽいじゃん? じゃあ、殺すの正義だよね~?」
「そこにおられるのは藩主か?」
黒バラは赤ユリを無視。
サソリに向かって、
「その巨体、見覚えがあると思った」
「すらっとして綺麗な人って言い直したら、認めてあげる」
「すらっとして綺麗な人だ」
「ご名答。藩主のサソリよ」
「城へお帰り願う。奥方がお待ちしておられる」
「そりゃサソリだって妻ちゃんに会いたいよ!!!」
サソリは庭に近づこうとする。
サクラがしがみついて必死に制止する。
「でもねぇ、妻ちゃんを助けるためにも、この藩の実権を取り戻すためにも、あんたたちをぶっ飛ばさなきゃなんないの!」
「我ら蚊虻教は藩の運営に協力的だ」
「乗っ取ったくせに! それに、あんたたちは妻ちゃんを宗教にのめりこませた。……妻ちゃんは無事なんでしょうね!!?」
「さて、ね」
サソリはキレた。
サクラを振り払って突進。
無謀だった。
あわやチェーンソーの餌食になるかと思われた一瞬。
「硬~い!!!」
サソリを庇ったのは黒くて硬いあいつ。
チェーンソーの刃はボロボロになった。
その正体は、
「ニヤニヤちゃん、妖怪だったの!?」
リケイカインであった。
これには双子もびっくり。
「妖怪まで仲間に加えておるとは驚いた。しかし、ならば、なおさら蚊虻教と敵対する理由はない。我らは妖怪との共存を望んでおる」
「人を傷つけるやつらが共存を語ってんじゃないっつうの! っていうか、ニヤニヤちゃん、大丈夫?」
心配無用だった。
リケイカインの体には傷ひとつない。
「これ、ぼくの固有能力! 【硬質化━ザイフリート━】!」