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第041話 リケイカインの固有能力

 瀬良寺が母から秘伝の毒を継承している間のこと。

 別室ではマギたちがくつろいでいた。


「妻ちゃんの肖像画、見たい? 見たいよねぇ? んもう、しょうがないなぁ。見せてあげる」


 サソリは頼まれてもいないのに、配偶者の似顔絵を見せつけまくった。

 しかし妻とは言うものの、その性別は男性。

 だからサクラは言葉選びに困った。


「ろれも綺麗な奥方……お方れあります」

「呼び方とかは別に気にしなくていいよ。奥さんでも奥方でも旦那でもパートナーさんでもルドルフちゃんでも何でもいいからね」

「は、はいぃ」

「あ、早口でごめんねー?」


 サソリがゲイであることを告白した影響はなかった。

 特にマギは迫り来る眠気との戦いに必死で、それどころではなかった。


「ほーんと、こいつらって呑気なんだか、優しいんだか」


 ほっこりするサソリ。

 寂しげな視線を絵の上に落とす。

 カルト教団にハマってしまった良人。

 必ず救いたいという想いが募る。


「いる!」


 突如として、ここまで黙ってニヤニヤし続けていたリケイカインが口を開いた。


「あんた、『マギ好きぃ~』以外もしゃべれるんだ」


 サソリがちくり。

 リケイカインは障子を見つめる。


「庭にお客さん」


 サクラはそれを言葉通りに受け取って、障子を開けた。

 客がいるなら挨拶しなければと思った。

 素直で礼儀正しい子だった。


「あれ……?」


 庭先には誰もいなかった。

 ところが、どこかから声がする。


「バレちゃったじゃ~ん」

「仕方あるまい。こうなれば堂々とするのみ」


 暗闇から姿を表したのは2人の子供。

 夜道で出会った双子――赤ユリと黒バラだった。


「曲者だ! 出合え!」


 双子の存在に気づいた使用人たちが駆けつける。


「瀬良寺家が蚊虻教に出入り自由を言い渡した覚えはないぜ!」

「黒バラ、あ~し、やっちゃってい~?」


 囲まれても動じずに赤ユリは袂を探る。

 黒バラは不愉快そうに、


「救祖から騒ぎを起こすなと言われておる」

「あっ、手が滑っちゃった~」


 わざとらしく赤ユリがよろめく。

 それと同時に小型の武器を取り出し、使用人たちにぶつける。

 大きな音。

 悲鳴。


「何、あれ!? 見たことないけど……カラクリ!!?」


 サソリは正しかった。

 その武器の名はチェーンソー。

 あっという間に、庭が血に染まっていく。


「やっちゃったものはしょ~がないっしょ~?」


 チェーンソーを振り回しながら赤ユリが笑う。


「それに~、こいつら蚊虻教に反抗しようとしてるっぽいじゃん? じゃあ、殺すの正義だよね~?」

「そこにおられるのは藩主か?」


 黒バラは赤ユリを無視。

 サソリに向かって、


「その巨体、見覚えがあると思った」

「すらっとして綺麗な人って言い直したら、認めてあげる」

「すらっとして綺麗な人だ」

「ご名答。藩主のサソリよ」

「城へお帰り願う。奥方がお待ちしておられる」

「そりゃサソリだって妻ちゃんに会いたいよ!!!」


 サソリは庭に近づこうとする。

 サクラがしがみついて必死に制止する。


「でもねぇ、妻ちゃんを助けるためにも、この藩の実権を取り戻すためにも、あんたたちをぶっ飛ばさなきゃなんないの!」

「我ら蚊虻教は藩の運営に協力的だ」

「乗っ取ったくせに! それに、あんたたちは妻ちゃんを宗教にのめりこませた。……妻ちゃんは無事なんでしょうね!!?」

「さて、ね」


 サソリはキレた。

 サクラを振り払って突進。

 無謀だった。

 あわやチェーンソーの餌食になるかと思われた一瞬。


「硬~い!!!」


 サソリを庇ったのは黒くて硬いあいつ。

 チェーンソーの刃はボロボロになった。

 その正体は、


「ニヤニヤちゃん、妖怪だったの!?」


 リケイカインであった。

 これには双子もびっくり。


「妖怪まで仲間に加えておるとは驚いた。しかし、ならば、なおさら蚊虻教と敵対する理由はない。我らは妖怪との共存を望んでおる」

「人を傷つけるやつらが共存を語ってんじゃないっつうの! っていうか、ニヤニヤちゃん、大丈夫?」


 心配無用だった。

 リケイカインの体には傷ひとつない。


「これ、ぼくの固有能力! 【硬質化━ザイフリート━】!」

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