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第042話 もっと強くなった棍棒

「余は眠いぞ。そち一人でどうにかしろ」

「マギ、好きぃ♡」


 リケイカインの硬い肌が赤ユリのチェーンソーを弾く。

 壮絶な戦闘。

 だがマギの眠気を吹き飛ばすことはできない。


「ちょっと、あんたどうして戦わないの!? お股に立派なモノぶら下げてるでしょうが!!」


 サソリが檄を飛ばしてもマギは決起しない。

 そのとなりではサクラがあたふた。


「サソリ様、危ないれあります!!」

「あっ、これお高いやつじゃん!!」


 すでに戦いの舞台は庭から屋敷の中へと移っていた。

 掛け軸。

 壺。

 花瓶。

 その他いろいろな高級品がチェーンソーによって破壊されかけていた。


「やばーい! ねえ、ニヤニヤちゃん、早くケリつけて!」


 サソリとサクラが必死に家財を守る。

 リケイカインの股間から伸びる黒鳥が赤ユリを狙う。


「援護よろ~~~! 黒バラ~~~!!!」


 黒鳥が赤ユリを仕留める寸前。

 黒バラが袂から武器を取り出す。

 それは銃。

 しかし飛び出るのは弾ではなかった。


「水鉄砲じゃん! 驚かせないでよ、もー!」


 怒るサソリ。

 確かに黒バラが放ったのは液体。

 しかしサクラは気づいた。


「触っれはいけません! 除草剤れあります!」


 しかも一般には流通されないレベルの毒性を有している。

 それを黒バラはめったやたらに連続射撃。


「マギ!!!」


 リケイカインが振り返った時にはもう遅かった。

 黒バラが放った除草剤。

 今にもマギに命中しそうになっている。


「うるさいぞ……余はおねむである……」


 マギはうとうと。

 誰もマギを助けられる場所にはいない。


「危ない!」

「ほうぇぁ!?」


 誰かがマギを庇った。

 上から覆い被さり、除草剤を浴びる。

 強力な毒が顔をつたう。

 それでも自分のことより小さな子供のことを気にかける。


「ケガはありませんか?」


 ビタリアだった。

 騒ぎを聞きつけ走って来た。


「余は……元気ぞ」

「よかったです」


 ほっとするビタリア。

 マギの股間に白鳥がいるとは露知らず。


 ――優しい。柔らかい。あたたかい。これが……。


 マギはじっとビタリアを見つめる。


「……母……」


 何かを伝えたい衝動に駆られるマギ。

 言葉を見つける前に、物音。


「リケイカイン! マギ! 援護を頼む!」


 瀬良寺だった。

 いつものように棍棒を手にしている。

 だが、その武器は新たな毒を付与されているのだ。


「棒なんかじゃやられないよ~」

「油断するな、赤ユリ」


 黒バラの忠告も聞かず、赤ユリは瀬良寺に向かって突進。

 リケイカインは除草剤を黒鳥で弾き飛ばす。

 瀬良寺は赤ユリに棍棒を振るう。


「子供といえど容赦はしない!」


 見事、棍棒は赤ユリをとらえた。

 瞬間、赤ユリは吐血。


「がっ……」


 その場に倒れこむ。


「赤ユリ!!!」


 駆け寄る黒バラ。

 しかし、すでに赤ユリは息絶えていた。


「赦さんぞ、貴様ら……!!!!」

「無駄な抵抗はよせ。我が棍棒は心臓を破裂させる毒を打ち込む」


 それが新たな毒2つのうちのひとつだった。


「おとなしく情報を吐いてもらおう。それとも拷問が必要か? 私の得意分野だ」

「貴様らに屈する蚊虻教ではない!!!!」


 黒バラは銃を上に向けて放った。

 除草剤のシャワー。

 瀬良寺たちがひるんだ隙をついて黒バラは逃げ去った。

 とにもかくにも一件落着であった。


「すごーい! 瀬良寺ちゃん、強いんだ!」


 サソリが感激する。

 瀬良寺は棍棒を背負いながら、


「大したことはありません。私より強い人だっていますよ。……今頃どこで、どうしていることやら。それよりサソリ様、急ぎましょう」

「何を?」

「やつを逃がしてしまいました。私たちが反旗を翻そうとしていること、蚊虻教本部に伝わるのも時間の問題でしょう」

「……ヤバイね」


     *     *


 同時刻。

 御所藩の城の一室にて、歓談する2人がいた。

 ひとりは救祖・巡カズスエである。


「奥方様、ますます美しくなられましたね」


 相手は藩主サソリの妻・ルドルフ。


「サソリ様も素直に入信すればよかったのにぃ」

「藩主様ですから、きっとそうもいかない事情がおありなんでしょう」

「教祖様、優しぃ」

「教祖じゃなくって救祖ですぅ」


 会話の最中、城下から騒ぎが聞こえてきた。


 ――あのバカ双子め。何かしでかしたな。それはそれとして……。


 何気ない様子で救祖は席を外した。

 暗い廊下。

 側近さえいない場所で、救祖は虚空に向かい、


「そこにいるのは神葉か?」


 暗がりから神葉が姿を現す。

 攻撃する素振りなど無い。

 膝をつき、


「ご指示をたまわりたいっす」

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