「余は眠いぞ。そち一人でどうにかしろ」
「マギ、好きぃ♡」
リケイカインの硬い肌が赤ユリのチェーンソーを弾く。
壮絶な戦闘。
だがマギの眠気を吹き飛ばすことはできない。
「ちょっと、あんたどうして戦わないの!? お股に立派なモノぶら下げてるでしょうが!!」
サソリが檄を飛ばしてもマギは決起しない。
そのとなりではサクラがあたふた。
「サソリ様、危ないれあります!!」
「あっ、これお高いやつじゃん!!」
すでに戦いの舞台は庭から屋敷の中へと移っていた。
掛け軸。
壺。
花瓶。
その他いろいろな高級品がチェーンソーによって破壊されかけていた。
「やばーい! ねえ、ニヤニヤちゃん、早くケリつけて!」
サソリとサクラが必死に家財を守る。
リケイカインの股間から伸びる黒鳥が赤ユリを狙う。
「援護よろ~~~! 黒バラ~~~!!!」
黒鳥が赤ユリを仕留める寸前。
黒バラが袂から武器を取り出す。
それは銃。
しかし飛び出るのは弾ではなかった。
「水鉄砲じゃん! 驚かせないでよ、もー!」
怒るサソリ。
確かに黒バラが放ったのは液体。
しかしサクラは気づいた。
「触っれはいけません! 除草剤れあります!」
しかも一般には流通されないレベルの毒性を有している。
それを黒バラはめったやたらに連続射撃。
「マギ!!!」
リケイカインが振り返った時にはもう遅かった。
黒バラが放った除草剤。
今にもマギに命中しそうになっている。
「うるさいぞ……余はおねむである……」
マギはうとうと。
誰もマギを助けられる場所にはいない。
「危ない!」
「ほうぇぁ!?」
誰かがマギを庇った。
上から覆い被さり、除草剤を浴びる。
強力な毒が顔をつたう。
それでも自分のことより小さな子供のことを気にかける。
「ケガはありませんか?」
ビタリアだった。
騒ぎを聞きつけ走って来た。
「余は……元気ぞ」
「よかったです」
ほっとするビタリア。
マギの股間に白鳥がいるとは露知らず。
――優しい。柔らかい。あたたかい。これが……。
マギはじっとビタリアを見つめる。
「……母……」
何かを伝えたい衝動に駆られるマギ。
言葉を見つける前に、物音。
「リケイカイン! マギ! 援護を頼む!」
瀬良寺だった。
いつものように棍棒を手にしている。
だが、その武器は新たな毒を付与されているのだ。
「棒なんかじゃやられないよ~」
「油断するな、赤ユリ」
黒バラの忠告も聞かず、赤ユリは瀬良寺に向かって突進。
リケイカインは除草剤を黒鳥で弾き飛ばす。
瀬良寺は赤ユリに棍棒を振るう。
「子供といえど容赦はしない!」
見事、棍棒は赤ユリをとらえた。
瞬間、赤ユリは吐血。
「がっ……」
その場に倒れこむ。
「赤ユリ!!!」
駆け寄る黒バラ。
しかし、すでに赤ユリは息絶えていた。
「赦さんぞ、貴様ら……!!!!」
「無駄な抵抗はよせ。我が棍棒は心臓を破裂させる毒を打ち込む」
それが新たな毒2つのうちのひとつだった。
「おとなしく情報を吐いてもらおう。それとも拷問が必要か? 私の得意分野だ」
「貴様らに屈する蚊虻教ではない!!!!」
黒バラは銃を上に向けて放った。
除草剤のシャワー。
瀬良寺たちがひるんだ隙をついて黒バラは逃げ去った。
とにもかくにも一件落着であった。
「すごーい! 瀬良寺ちゃん、強いんだ!」
サソリが感激する。
瀬良寺は棍棒を背負いながら、
「大したことはありません。私より強い人だっていますよ。……今頃どこで、どうしていることやら。それよりサソリ様、急ぎましょう」
「何を?」
「やつを逃がしてしまいました。私たちが反旗を翻そうとしていること、蚊虻教本部に伝わるのも時間の問題でしょう」
「……ヤバイね」
* *
同時刻。
御所藩の城の一室にて、歓談する2人がいた。
ひとりは救祖・巡カズスエである。
「奥方様、ますます美しくなられましたね」
相手は藩主サソリの妻・ルドルフ。
「サソリ様も素直に入信すればよかったのにぃ」
「藩主様ですから、きっとそうもいかない事情がおありなんでしょう」
「教祖様、優しぃ」
「教祖じゃなくって救祖ですぅ」
会話の最中、城下から騒ぎが聞こえてきた。
――あのバカ双子め。何かしでかしたな。それはそれとして……。
何気ない様子で救祖は席を外した。
暗い廊下。
側近さえいない場所で、救祖は虚空に向かい、
「そこにいるのは神葉か?」
暗がりから神葉が姿を現す。
攻撃する素振りなど無い。
膝をつき、
「ご指示をたまわりたいっす」