キーンコーンカーンコーン。
「先生さようなら。みなさんさようならッショ~」
小学校の帰りの会かよ!
って、小学校エアプのオレがツッコむことではないな! はい、生きていてごめんなさい!
「放課後ッショ~! マリモちゃん一緒に帰るッショ~」
「購買に寄ってから帰ろ~♡」
マリセコカップルが仲良さそうに手を繋いで廊下に出ていく。
うらやまけしから――。
「天誅ぅぅぅぅ!」
2人の繋いだ手をチョップで切って、そのまま走り去っていく米粒先生。
気持ちはわかるが、先生のやることじゃねぇな。
「あっ、ちょっと先生! 待ってくれよ! あー、行っちゃった……」
しまった……。
ついアホな行為をぼんやり眺めて見送ってしまった。
寮の場所もわからないし、オレはこの後どうしたら良いんだろう……。
「ラブコメさん、もしかして放課後、暇なんですか?」
隣の席のメグミちゃんが、カバンに教科書を詰め込みながら話しかけてきた。
「あ、うん。暇っていうか、朝この学園に来たばっかりだから、この後何したら良いかわかんなくってさ……」
寮の場所もわからないし、寮に入ることも知らなかったから、着替えとか、生活雑貨とか、何も持ってないし? とりあえず職員室にでも行って訊いてみるかな。
「良かったら、私が学園内を案内しましょうか」
「えっ、マジで⁉ すっげぇありがたい!」
しかもメグミちゃんとお近づきになるチャンス!
「ミナミも一緒に行ってもええ?」
上目遣いにオレのことを見つめながら手を取ってくる。
「も、もちろん! ありがとうな!」
メグミちゃんと2人きりじゃなくなるのはちょっと残念だけど、ミナミちゃんに見つめられると弱いなあ。この小動物みたいな愛らしさは庇護欲がくすぐられて……。
「私も行きたい!」
「ね~ちゃんも~!」
「私も!」
「あ~しも」
「あっしも」
「おいどんも」
一斉にクラスメイトが⁉
「待て待て待てー! 全員は無理だから! まだ名前も顔も覚えてないから! 順番に頼む!」
100人は多すぎるんだよな!
ていうか、おいどんは誰や⁉
えっ、キミがおいどんなの⁉
ゆるふわパーマのお嬢様系なのに⁉
見た目としゃべり方のギャップすごいな!
「全員覚えるには尺が足りないから、またの機会にな! オレが転校しなかったら全員覚えるから!」
これはタンペンだからさ。チョウヘン化した暁には全員出番があるはず?
そういうことでよろしく頼むわ! なんか知らんけど!
「てことで、メグミちゃん、ミナミちゃん、今日は2人に案内をお願いしても良いか?」
ほかのみんなは寮に帰るなり、部活に出るなり自由行動で頼む!
「はい、わかりました」
「OKやで~♡」
ミナミちゃん、ナチュラルに手を繋いで……もうこれはオレたち付き合っているってことで良いのかな⁉
「学園内を施設を案内します。ついてきてください」
メグミちゃんは、オレとミナミちゃんの様子を一瞥した後、早足で教室を出ていった。
まさか焼きもち……なわけないか。
「ちょっと待ってくれよー」
ミナミちゃんの手を引いて、メグミちゃんの後を追う。
* * *
「ここが部室棟。そしてここがバナナ部の部室です。どうぞ中へお入りください」
「お、おう……」
初っ端の紹介が自分の所属する部室とはな……。
まあ、バナナ部ってやつに興味はあったから、別に良いけどさ。
「どうぞ、おくつろぎください。今お茶を淹れます」
「お、おう……」
なんだここ……。
めっちゃ蒸し暑い……。
壁もタイルも黄色いし、部屋の中にバナナの木が生えてやがる……。バナナを育てる部活なのか?
「すごいやんか~。バナナだらけや~」
ミナミちゃんが感嘆の声を上げた。
「ミナミちゃんもここに入るのは初めてなんだ?」
「せやで~。ミナミはバナナ部ちゃうもん」
「そうだよな。自分の部活の部室以外に入ることなんてそうそうないか。ちなみにミナミちゃんは何部?」
エプロンいっぱい持っていたし、調理部か? それとも、エプロンを作るほうの手芸部とか?
「ミナミはエプロン部やで~」
「まさかのエプロン特化型!」
どういうことだよ……。
「エプロン部って何する部活なの……」
「エプロンを作ったりエプロンを身につけたりする部活に決まってるやんか~。おかしなラブちゃん~」
ミナミちゃんが笑いながらオレの背中を叩いてくる。
そんなの決まってないやんかー。
エプロン部なんて初めて聞いたしな……。活動内容がピンポイント過ぎるだろ……。
「それってみんなで黙々とエプロン作る部活なの?」
ほかの服を作ったりとか……。
「みんな? エプロン部はミナミしかおらへんよ?」
「まさかの部員1人とは……」
部活って5人以上じゃないと部として認められないとか、そういう規定はないのか?
「1人のほうが気が楽でええよ~」
まさかの心の闇⁉
聞いちゃダメだったやつか⁉
ミナミちゃんって、明るく誰とでも仲良くなれそうな性格っぽいのに。
「それにな~、ほかに部員がおったら、エプロン売れた時、売上山分けせなあかんやんか~」
「エプロン売れた時? 作ったエプロンを売ってんの?」
そういえば文化祭が近いんだっけか。
エプロン部だし、そういうところでエプロンの販売をして活動資金を得ているってことかな。
「せや。さっきの授業でラブちゃんに貸したエプロン返してくれへん?」
「あ、うん。洗濯してから返すよ。ちょっと汚れちゃったし」
「あかんあかん! 洗ったらニオイが消えてまうやんか」
「ニオイ……?」
そりゃまあ、さっきはみんなでカレーを作ったし、だいぶ香辛料のニオイが染みついているかもな。
「ラブちゃんな~、もう一度エプロンつけてくれへん? 写真撮りたいねん」
「写真? 良いけどなんで?」
「それは……まあええやん? そういうこともあるやんか?」
なんかはぐらかされたな……。
まあ良いけど。
カバンから袋に入れておいたイチゴ柄のかわいいエプロンを取り出す。
オレにはちょっとかわいすぎる気がするが、ミナミちゃんが持っていたエプロンの中でも1番地味なのがこれだったわけで……。
「えっと、これで良いか?」
ミナミちゃんって、エプロンを貸した相手の写真を撮る趣味があるのかな?
待てよ……これは違う!
オレのことが好きなんだな⁉ そうだよな! 手も繋いでくるし、オレの写真が手元にほしかったってことだ! 行ける、行けるぞぉぉぉぉぉ!
「ラブちゃん、棒立ちやなくてポーズ取ってな。それと顔を隠さな」
「隠す? こう?」
言われた通り、両手で顔を覆う。
「ちゃうねん。口元は見せるねん。口元は口角を上げて笑うんや。こうやで!」
なんかこう……いかがわしいお店の紹介みたいな……。
「ええやんか! おおきに、ありがとうな」
ミナミちゃんは何枚か撮影したポラロイド写真の出来を確認して、満足そうに頷いた。
「ああ……。それ、何に使うんだ?」
顔が映っていないオレの写真……。
オレのことが好きでオレの写真を手元に置きたい……って感じじゃないよな。
「もちろん販売用やで?」
「販売用……?」
「エプロン販売サイトに並べるんや。心配しなくても平気やで。顔は写ってへんし、個人情報も出さへん」
うん……。
めちゃくちゃ怪しいな。
「その販売サイト見せて」
「あかん」
怪しい。
「じゃあ、その写真、返して」
「そんな殺生な~。ミナミの生活費が~。ひどいこと言わんといて~」
ダメだよ?
おめめウルウルさせて庇護欲を刺激しようとしても、今回は断固として認めない!
「販売サイト見せなさい」
「……センセには内緒にしてくれる?」
「内容次第」
「う~~~~~」
「早く。メグミちゃん戻ってくるよ?」
それともメグミちゃんにも一緒に見てもらう?
「サイトはこれや……」
ミナミちゃんは観念したのか、自分のスマホの画面を見せてきた。
「ふむ……」
どう見ても、いかがわしいエプロン専門の販売サイトですね。
「1着1万円から……高いなあ」
顔を隠したミナミちゃん(と思われる女の子)のエプロン姿がずらりと並んでいた。
んー、でも……ギリセーフか?
下着姿とか、制服姿はなくて、個人情報を特定するような書き込みもなさそう。
「でもリピーターも多いんやで? おじさんたちがミナミのファンでな~」
シンプルにロリ〇ン〇ね!
「なあ、オレのその写真もこのサイトに載るのか?」
「ダメ……?」
だから上目遣いに見てくるな!
「ダメ……じゃないけど、恥ずかしいなと」
「大丈夫やって~。ラブちゃんかわいいし、『新人ちゃん』ってタグをつけたら、たぶん3万はかたいで」
3万……。
たかがエプロンに3万……。
「売れたら半分はラブちゃんのものやで~」
「えっ、良いの?」
「もちろんやで~。これからも協力してくれるならな~」
ミナミちゃんがにんまりと笑う。
これからもときやがったか。
しっかりしてやがる……。さすが関西人ってところか?
「話は聞かせてもらいました。先生に告げ口されたくなければ、売上は3等分でお願いします」
メグミちゃん……出てくるタイミングをうかがってやがったな……。
こっちも良い性格してるぜ!