目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第8話 お賽銭に返金なんてあるわけないですよ。頭おかしいんですか?

「なんだあれ……?」


 あれだけビニールハウスじゃないな。

 小さな鳥居……祠?


「なんでこんなところに祠が?」


 1人用のサウナボックスくらいのサイズの小さな木製の祠が、なぜかビニールハウスとビニールハウスの間に鎮座していた。


 ずいぶん新しいし、なんでわざわざ黄色い塗装を? バナナの神様でも祀ってあるのか?


「ん、祠の前に小さな看板が……何か書いてあるぞ。『お賽銭を入れてください』か。なるほど」


 この賽銭箱の中にお金を入れると、おみくじでも引けるのかな。

 いくらだろ? んー、値段が書いてない……。


【お気持ちでけっこうです】


 うわっ、祠がしゃべった⁉


「お気持ちね……。おみくじだし、まあ100円か」


 高校生の小遣いで100円は、まあまあ大金なんだけどな。


【お気持ちは300円から受け付けています】


「だったらそう書けよ! いくらでも良いみたいに言っておいて……そのお気持ちってやつが一番困るんだよ! うーん、500円玉しかないな……ちょっとやめておこう」


【女神に向かって不敬な態度ですね。地獄に落ちますよ】


「怖い! おみくじ引かなかっただけで⁉」


【早く、その500円玉を投げ入れてください】


「えー、これ取られると今月おやつ買えなくなっちゃうんだけど……」


 まだ月初めで、お小遣い支給日は月末だから正直かなり厳しい……。


【大丈夫です。おやつはここにあるバナナを食べれば良いですし、エプロンの写真が売れれば、そのお金が入ってきますから、手数料を差し引いても1枚3000円は確実にもらえます】


 ああ、そうだった!

 ちょっと怪しいエプロン販売サイトだけど、ミナミちゃんの話だと固定客がいるみたいだし、実はめっちゃ良い話なのかもしれないな。なんならもっと撮影してもっと売れば、たちまち大金持ちになれちゃうのでは⁉


「って、なんで神様がそんなことまで知ってるんだよ⁉」


 盗撮か⁉


【神様ではありません。女神です。女神は何でも知っています】


「なるほど、たしかにそうか……」


 まあそうだよな。女神様なら何でも知っていて当然か。


「じゃあ、500円……。大吉頼むぞ!」


【お気持ち、確かに受け取りました。ラブコメさんに幸運が訪れますように】


 おみくじ♪ おみくじ♪



 んー、準備中かな?


 ……まだ?


「えーと、おみくじは?」


【そんなものありませんが?】


「500円渡したじゃねぇかよ! この祠は詐欺か⁉」


【ラブコメさんのお気持ちをお賽銭という形で表してくださいと言っただけですが? 勝手におみくじと言い出していて「おかしいな~?」とは思ったんですよね】


「その時点で訂正せんかーい! 500円受け取ってから言うのは悪意があるだろ! 返金だ返金!」


【お賽銭に返金なんてあるわけないですよ。頭おかしいんですか?】


「神様のくせになんて言い草だ! 黄色いバナナみたいな祠しやがって! オレの500円返せ!」


【やめてください。それに神様ではなく女神です。祠を揺さぶるなんて罰当たりな行為をするなら、いますぐ地獄に落としますよ!】


「うるせー! 500円の恨みのほうが地獄よりも強いんじゃー!」


「ラブコメさ~ん!」


 遠くからメグミちゃんがオレのことを呼ぶ声がした気がした。


「言い忘れていましたが、部屋の真ん中にある祠には決して近づかないで下さ……いけません! その祠と話をしたら呪われますよ!」


 ひどく慌てたようなメグミちゃんの声が近づいてくる。


「ラブコメさ~ん! ダメです! 今すぐその祠から離れてください!」


「おう、オレの500円を返してもらったらすぐ離れるよ。さっさと返せ! この賽銭箱を逆さにして振れば出てくるか?」


 今ちょっと忙しいだ。

 この盗人の神様に目にもの見せてやらないと!


「ラブコメさん! 今助けます! 突撃です!」


 えっ、何? メグミちゃん⁉

 バナナボートに乗っ……違う! バナナボート型のゴーカートに乗って突っ込んでくる⁉

 メグミちゃんが砂埃を立てながら、ものすごい勢いでオレのほうに迫ってくる。


「ラブコメさ~ん! 今助けますからね~!」


「ちょっとメグミちゃん! こんな狭い部屋でゴーカートに乗ったら危ないって!」


「きゃ~~~~~! バナナの皮に滑ってブレーキが! と、止まれない! 避けて~!」


 えっ⁉ マリカーばりにスピンしてる⁉

 こんな狭い場所で避けろったってどこに⁉ えっえっ⁉ 逃げ場なんてないぞ⁉


 そうだ祠! 祠の後ろにぃ! 守って神様!


【無茶言わないでください。それに私は女神です。物理的に突っ込んでくるゴーカートなんて防げるわけがないでしょう。むしろラブコメさんが身を挺して私の祠を守りなさいよ】


「うるせぇ! これはオレの500円をだまし取ろうとした罰だろうが! 500円分オレのことを救え!」


【無理ですって! ちょっと、やめてぇ⁉ メグミ! こっち来ないで!】


「ラブコメさん! 避けて~!」


 メグミちゃんが必死にゴーカートのブレーキを踏むも、高速でスピンしたまま勢いよく黄色い祠に激突。祠をバキバキに大破させてから、ようやくゴーカートの暴走は止まった。


「ら、ラブコメさん、無事ですか⁉ ケチな女神にお金をだまし取られたりしていないですか⁉」


「あ、うん……なんとかな……」


 むしろ今、メグミちゃんの操縦するゴーカートに轢かれる寸前だったわけだが。

 そっちの心配はしないのな。


 祠……だった黄色い板の間から、きらりと光る500円玉を発見。すばやく回収した。

 ナイスメグミちゃん! 助かったぜ!


「祠、バラバラになっちゃったな……」


【おのれ学園ラブコメ……。500円は返金できないとあれほど……】


「お、神様も生きているのか? 残念だけど祠壊れちゃったな」


【神様ではなく女神です。今すぐ祠を修理すれば許してあげましょう】


「いや、修理するための道具とかないし」


 気持ち的にも絶対修理したくないな!

 500円をだまし取ろうとした恨みは大きいぞ?


「なあ、メグミちゃん。このバラバラになった祠ってどうしたら……」


「破片が危ないのでほうきで掃いて隅っこに寄せておきましょう」


【だから修理をしなさいってば。この罰当たりどもが!】


「OKOK。ところでこの祠ってなんでこんなところにあるんだ? ビニールハウス栽培の邪魔じゃないか?」


 ずっと神様がうるせぇし。


「気にしたら負けです。私には何も聞こえませんが、もし祠から声が聞こえてきたとしても無視するに限ります。相手をするだけ時間の無駄ですから」


「声……聞こえ……」


 そうか。これは幻聴ってやつか。

 そうだよなー。この部屋全体がビニールハウスみたいで暑いし、ちょっと熱中症にでもなったかな。ハハハ。


【幻聴じゃないわよ? おい、学園ラブコメ。あなたのことはよ~く知っているわよ!】


 最近の幻聴は会話調でくるんだなあ。

 ハイテクハイテク。


【女子高に転校してきたからって調子に乗ってるの?】


 ギクリ。


【なんだかんだで自分にもワンチャンあると思っているの?】


 ギクギクリ。


【祠を修理しないなら、一生モテなくなる呪いをかけるわよ!】


 怖っ! そういうのは冗談でもやめて⁉


【祠を修理して毎日バナナを備えて祈りを捧げたら、それなりに見返りをあげようかな~。どうしようかな~?】


 くっ……。イラつく神様だな……。


【呪う? 呪っちゃう? 半径3m以内に女の子が近寄ってきただけで、おもらししちゃう呪いかけちゃう⁉】


 やめて⁉

 オレにも人間の尊厳とかあるからね⁉


【じゃあ修理一択でしょ】


 はい……。

 オボエテロヨ。


【ラブコメちゃ~ん? 今なんか言ったかな~?】


 ナニモイッテマセン。


「ラブコメさん、その声は無視したほうが良いですよ」


「でも呪われ……」


「姉さん、ラブコメさんをからかって遊ぶのはいい加減にしてください。もう涙目ですよ。かわいそうじゃないですか」


 ねえさん……?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?