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第15話 4-3:レオナルドの没落



エリゼの不正が発覚し、義妹が侯爵家から追放されるという事態が王都中に広まると、次にその余波を受けたのは元婚約者レオナルドだった。彼は公爵家の当主として、エリゼと共に背負った失態を取り繕うことができず、徐々に追い詰められていった。


その日、アルシェナールは診療所で新たな薬草の調合を進めていた。そんな中、アシュレイが現れ、持ってきた手紙を彼女に手渡した。


「アルシェナール、この手紙を読んでくれ。少し面白い内容だよ。」


彼の言葉に、アルシェナールは怪訝な顔をしながら手紙を開いた。そこには、レオナルドが現在窮地に陥っているという内容が記されていた。


「……エリゼが追放されたことで、彼も信頼を失ったのね。」


彼女は冷静な声でそう呟いた。手紙によれば、レオナルドはエリゼが行った不正の責任を問われ、公爵家全体が貴族社会で孤立しているということだった。


一方、レオナルドはというと、王宮や貴族たちからの圧力に耐えきれず、日に日に疲れ果てた様子を見せていた。公爵家の財産はエリゼの浪費で大幅に減少し、さらには彼自身の判断力も疑問視されていた。


「なぜ、あのような女を選んでしまったのだ……。」


彼は自室で一人、悔しさに苛まれながら呟いた。エリゼを婚約者に選んだことで、侯爵家も公爵家も共に転落の道を辿る結果になったことを、ようやく実感し始めていた。


その時、ふと頭に浮かんだのは、かつての婚約者アルシェナールの存在だった。


回想:アルシェナールとの日々


レオナルドは、アルシェナールとの婚約期間中の出来事を思い出していた。彼女はいつも冷静で知的、そして思慮深く振る舞っていた。家族や公爵家の名誉を第一に考え、堅実な判断を下していた彼女の姿は、今思えば公爵家にとって理想的な当主の伴侶だった。


しかし、その魅力に気づくのが遅すぎた。


「どうして、あの時の僕は彼女を捨ててしまったのか……。」


エリゼの軽薄な態度に惑わされ、自分の愚かな選択が今の状況を招いたと理解した時には、すでに全てが手遅れだった。


アルシェナールとの再会を求めて


レオナルドは、自らの苦境を脱するための道を模索し始めた。彼にとって唯一の希望は、アルシェナールに許しを請い、もう一度やり直すことだった。


ある日、彼は使者をアルシェナールのもとに送り、面会を求める手紙を届けた。その内容は、彼女への謝罪と、自分の愚かさを認める言葉で綴られていた。


診療所での再会


手紙を読んだアルシェナールは、ほんの少しだけ考え込んだが、やがて面会を承諾した。彼女は冷静だったが、どこか興味を抱いているようにも見えた。


指定された日に診療所を訪れたレオナルドは、以前の威厳ある姿とは異なり、疲れ果てた表情で立っていた。


「アルシェナール……久しぶりだ。」


彼の声にはかつての自信は感じられず、どこか弱々しさが漂っていた。アルシェナールは冷静な表情で彼を見つめ、短く答えた。


「何のご用でしょうか、公爵様?」


その冷ややかな言葉に、レオナルドは思わず目を伏せた。


「僕は……間違っていた。君を捨ててエリゼを選んだことが、どれだけ愚かなことだったか、今になってようやく気づいたんだ。」


「それで、今さら私に何を望むというのですか?」


アルシェナールの言葉には、冷たさと同時にかすかな怒りが込められていた。


「君とやり直したい……。僕を許してほしい。もう一度……いや、君なしでは僕は……。」


必死に訴えるレオナルドだったが、アルシェナールは微動だにせず、彼をじっと見つめた。


「許してほしい……ですか?」


彼女は淡々とした声で言葉を続けた。


「あなたが私を捨てた時、私はすべてを失いました。でも、そのおかげで、自分の力で生きていく道を見つけることができたんです。今の私に、過去を振り返る理由はありません。」


その言葉に、レオナルドは絶望の表情を浮かべた。


別れの時


アルシェナールは最後に冷たく微笑むと、一言だけ付け加えた。


「どうか、お元気で。」


そう言い残して診療所に戻る彼女の背中を、レオナルドはただ見送るしかなかった。彼の中で、失われたものの大きさを改めて痛感しながら。




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