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第6話 奴隷が飲める代物

 それに、ココは戦災孤児なのか……。

 ってことは戦争で家族を失ったってことだよな?

 それで、自分の心を保つために『自分は貴族の娘だ』っていう嘘を信じ込んでいるってことか?

 平和な現代日本で暮らしてきた俺には、何を言う資格もないような気がして、黙って紅茶に口をつける。

 豊かな香りと口の中に広がる味わい。

 うまい。

 そうとう高級な茶葉だな。

 たぶん、奴隷が飲める代物ではないだろう……。

 と、思ったら。

 ミラリスが自分の分のカップに自分で紅茶ポットからお茶を注ぎ、


「えへへー! はい、ココちゃん! お茶もどうぞー!」

「あらかわいらしいメイドさんね。ありがたくいただくわ」


 ココは堂々とお茶を飲んでいる。

 主人の妹をメイド代わりにしてお茶を運ばせるとか、ほんとフリーダムな奴隷だな。


 ガルニなんか、もう顔を真っ赤にして怒ってるぞ。

 なんなら今にも剣を抜きそうな勢いだ。


「うふふふ。亡命してきたから仕方がないとはいえ、この服はちょっとねえ。ミラリスちゃん、ちょっと姉上様に私の素敵なドレスをお願いしてくれませんか?」

「うんわかったー! お姉ちゃん、ココちゃんが服がほしいんだってー!」


 ついにガルニの堪忍袋の緒が切れたみたいで、大声で叫んだ。


「ミラリス様! 調子にのってはいけません! こら、奴隷、お前もそろそろいい加減にしないとたたっ斬るぞ!」


 ビクッとするココ。

 とりあえず手にもった紅茶を一気飲みし、ケーキも喉に詰め込むようにして食べてから、すました顔で外を見て、


「ふふ……素敵なお庭……。麦畑もあんなに実って素敵な土地ね……」


 などと意味不明の供述をしており、ガルニはさらに怒って、


「今日の夜の仕事は増やしてやるからな! 寝ないで水汲みだ!」


 シュリアがたしなめるように言う。


「ダメよ、意地悪しちゃ。それに、傷つけたり痛くしたりするのもやめてね。奴隷ちゃんは私のものなんだからね」


「し、しかし、最近度が過ぎておりますぞ。ちゃんと教育をせねば!」

「それはそうね……。でも、意地悪はしちゃだめよ」


 そのとき、ミラリスがまた俺のもとへとやってきた。


「えへへーお兄ちゃんの服、変な形してるー!」


 35歳にして、こんな小さな女の子からお兄ちゃんと呼ばれるなんて、なんか感動だぜ。


「変な生地の服ー!」


 とか言って俺のパーカーの裾をひっぱってまじまじと見ているミラリス。

 物怖じしない子だな。

 その分、それがかわいく感じる。

 きっと両親に愛されて育ったんだろう。

 両親か……。

 俺はもう一度ココの顔を見る。

 と、その時だった。

 突然、ココが空を指差して叫んだ。


「救世主様、救世主様! ドラゴンが……」

「は?」


 俺も空を見上げる。

 さっきまで眩しいほど俺たちを照らしていた太陽の光が、なにか大きな影に遮られていた。

 これは……なんだ?

 四枚の異形の羽、長い首に長い尻尾。

 とんでもないデカさの『なにか』が空を飛んでいたのだ。

 そして、その『なにか』の傍らにはステータス。


●SSS

▲SSS

■SSS

✿SSS

★K


 なんだ?

 この世界はこんなのが空を飛んでいるのが普通の世界なのか?

 しかし、俺がシュリアの顔を見たとき、すぐにそうではないことがわかった。

 シュリアは真っ青な顔でカップを床に取り落としたからだ。

 次の瞬間、控えていたガルニがシュリアを後ろから抱きかかえた。


「あれは火を吹きます! 地面に伏せてください! 客人! ミラリス様を!」


 それを聞いて、俺の身体は即座に動いてくれた。


 そばにいたミラリスの身体を抱え、ガルニにならってテラスを降りる。

 火を吐くっていうのなら、こんな木造の家の近くにいてはいけないと思ったのだ。

 庭に降りる。

 頭上で、コォォォォっという音が聞こえた。

 見上げると、ドラゴンが屋敷に向けて大きく口を開き、大きく息を吸い込んでいた。

 やばい。

 俺はミラリスを抱いたまま、なるべく遠くへ逃げようとダッシュする。

 だけど、花の植えこみに足を取られてしまった。

 やばい、転ぶ!

 ミラリスをぎゅっと抱きしめたまま、俺は地面に倒れ込んだ。

 少女の頭部を守るように両腕で抱える。

 次の瞬間、


「ゴァァァァァッ!」


 という大音響とともに、屋敷へと火炎放射機のような炎が放たれた。



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